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月へ唄う運命の唄
焔の約6

ちらりと回りを見渡せば、逃げ遅れたらしい者達がそこかしこで倒れているのが見える。流れている血の量や損傷具合からして、恐らくは皆息はないだろう。それらを見る度にずきりと、心臓を針で刺すような痛みが何度も走る。

ごめんね、守れなくて。本当に…ごめんね…

泣きそうになる。だが泣いている暇はない。今はモンスターを足止めして、生きている人達を一人でも多く逃がさなければ。彼らの死を悼むのは、無事此処を脱出してからだ。
甲板へと辿り着くと、脱出艇の前に立ちはだかるように大型のワイバーン何頭かが陣取っており、それに阻まれて身動きの取れない乗組員達が数人見えた。一人の兵を除いて皆非戦闘員だ。あれでは脱出するどころか、餌になってしまうのが目に見えている。

「……っ!邪魔を、するなぁあ!!」

脚力を強化し乗組員達の脇をすり抜けると、紫桜姫の切っ先を垂直に立て峰に手を添え高く飛び上がる。そのまま下を見下ろすワイバーンの首を一閃のもとにはねると、そのまま空中で一線に並んでいる残りの数頭へ向けて、大砲のような雷撃の大杭を射出。

――"雷吼砲"――

瞬きする間に音速を超える砲弾で首から上を消し飛ばされたワイバーンの群れは、成す術なく甲板の床へと崩れ落ちた。

「今です!早く脱出して下さい!!」

凄まじい戦いに一瞬呆気にとられていた乗組員達は、その声で我に帰ると一目散に脱出艇へと駆け込み、離脱していった。

『なんという、強さだ…それにあの術、瞳の変色は一体…あの娘、何者なのだ?』

スタンの持つソーディアンからそんな声が聞こえてきたが、構ってはいられない。

「スタン、あなたも早く脱出艇に!私が足止めしてるから、急いで!!」

頷いて駆け出す姿を見届けると、逃がさんとばかりに新たに姿を現す一群に向けて走り出す。
脱出艇の数は残り一機。元居た人数と脱出艇の数、脱出艇に乗り込める人数、助けられなかった人数…計算すると、恐らくはもう艦内に生存者は居ない。後は私とスタンだけ…か。
頭で素早く計算すると、立ち塞がる群れを再び雷吼砲で消し飛ばし脱出艇へ飛び込む。
急いでハッチを閉め離脱のスイッチを押すと同時に、外から炎のブレスが襲いかかってくる。…が、間一髪で無事飛行竜から離脱は出来たようだ。

「あ、危なかった…クノンは大丈夫!?」

「私は大丈夫っ…きゃっ!?」

雲の上を飛んでいた飛行竜から離脱した脱出艇は、その下の分厚い雲の中を切り裂きながら落下していた。空気を裂くその振動は凄まじく、下手をすると舌を噛んでしまいそうになる。
そんな中、姿勢固定用のベルトも巻かずに転がり込んでいた二人は、揺れに弄ばれるままに内部の壁に体を打ち付けてしまう。

「あ痛ぅ…って、どこ触ってるのバカ!!」

「ご、ごめ…うわぁあ!?」

二人して転げ回る内に、今度は爆発したような衝撃が二人の乗る脱出艇へと襲いかかる。減速もしないまま降下し続けた脱出艇は、雲を突き抜けその下の大陸……深い雪の積もる山奥にある大きな湖へと、凄まじい速度で落下したのだ。水を叩く巨大な衝撃に、半ば四散するようにして大破した脱出艇から水中へと玩具のように投げ出される二人。
とてつもない衝撃に意識を刈り取られブラックアウトするその寸前、クノンは見た気がした。

炎渦巻く古の剣を掲げ、その名を強く叫ぶ金髪の青年の姿を。

爆散する湖の底で、後に英雄と称えられる一人のソーディアンマスターの勇姿を。

2013/01/03
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