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月へ唄う運命の唄
焔の約5

「この、……なんだっ!?」

慌てふためく男に再度蹴りを入れようとした艦長に向けて、何処からか林檎が投げつけられてきた。

動く二つの気配。

目の前のこの人だけじゃない。まだ他にも侵入者が居るんだ。………あぁもう。

「艦長、この人は私が身柄を引き受けます。あなた方は他を。恐らくこの密航者以外にあと二人程侵入者が居るようです」

「姫騎士殿!…わかりました。直ちにかかります。おい、艦内をくまなく探せ!侵入者は二人、決して逃が…ぬぉおお!?」

突然の揺れに響く轟音。乗組員に指示を飛ばし捜索に当たろうとしていた艦長達は危うく転びそうになっていた。

「か、艦長!!モンスターの群れが、飛行竜に向かってきます!!」

「なんだと!?えぇい、総員第一級戦闘配備!!迎撃せよ!」

次から次へと……!!

「いや、待って下さい。この艦に配備された兵力では心許ない。艦長、迎撃ではなく人命を第一に、退艦準備を急いで下さい。モンスターは甲板で私がなんとかします」

「ですがアレの輸送は……!」

「人の命を優先してください!!アレの管理者は私ですから、それも任せて。お願いです……私は、人が死ぬのを見たくないんです」

クノンの懇願ともとれる悲しい表情での命令に、その責任感からか激しい剣幕で食ってかかってきた艦長も黙りこむ。数瞬、悩んだ末に艦長はわかりました、と命令を部下達に伝えに駆けて行った。

「さて、あなたはどうするか……」

突然の事態にわけもわからず混乱する男に視線を寄越す。…仕方ない、連れて行こう。

「ねぇ、名前は?」

「あ、お、俺、スタン=エルロンっていいます」

「そう、私はクノン。今からある物を回収しに行くから、君も着いてきて。丸腰じゃ危ないから私が守ってあげる」

そう言いながら腰元から紫桜姫を抜き、布都御魂を顕現させる。その様子に目を丸くしていたスタンの手を引いて倉庫まで走り出す。

「何それ、凄ぇ!!魔法!?それに眼の色も!」

「似たようなものだけど、巫術っていうの。…いいから急いで!!」

走り手を引きながら侵入し向かってくるモンスターを斬り飛ばす。正直こんな事態は有り得ない。飛行竜はその外観からモンスターに襲われるなんて事はない筈。巨大な象に蟻が立ち向かうようなもので、その異様から本能的に避ける筈なのに。…まさか…ね。
ふと過る予感に嫌な気配を感じるものの、今は余計な事を考えている暇はない。一刻も早くソーディアンを回収して、甲板へ向かわなければ。あそこの脱出艇が使えなくなってはアウトだ。
一気に艦内を走り抜けて、倉庫へと辿り着く。だが二人が倉庫内に入ると同時に数匹のウルフも飛び込んできてしまった為、振り向いて牽制を余儀無くされてしまった。

「仕方ない、スタン!この奥にやたら古い感じの剣が安置されてる。それを持ってきて貰える!?」

「わ、わかった!武器さえあれば俺も戦える!!」

いや、持ってきてくれるだけでいいから。資質がなければただの剣だし、戦力になるとは思えないし。

奥へ向かい走り出す気配を感じながら、クノンはウルフ達へと紫桜姫を振るう。二匹、三匹…後から後から侵入してくるモンスターを片っ端から斬り捨てる。正直キリがない。
横合いから飛び込んでくる鉤爪を回避しつつカウンターを放り込む。正面から向かって来るものには紫電の矢を放ち貫く。数分の後、突然何処かで見たような衝撃波が目の前に固まっていたモンスターの一群をまとめて粉砕した。

今のは……魔神剣?

「ごめん待たせた!!」

隣に並び回収したソーディアンを構える金髪に苦笑する。

「少しは出来るみたいね。なら、甲板まで突破するよ。着いてきて!!」

二人で倉庫を飛び出し、モンスターを薙ぎ払いながら駆け抜ける。

成る程、仕官を希望するだけあって少しは戦えるみたい。まだまだ隙だらけだけど。にしても、乗組員達は無事脱出出来ているのかな……?


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