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月へ唄う運命の唄
焔の約3

そして私の服装もまた、この世界に来てすぐの頃からは随分と様変わりした。
はじめはまだ誤魔化しの利く年齢や背格好だったことから男装だったが、それから一年して女という事を公開して以来、それはもう色々なものを着せられた。
深窓の令嬢風、ゴシックロリータ風、田舎の町娘、神官、使用人…エトセトラ。
何処から仕入れてくるのか、はたまたマリアンの手作りか。さながら着せ替え人形のごとく毎日のように変わっていったのだが、最近は成長した事もあって、漸く大分落ち着いた感じになってきた。
というか、この世界に来る前に見ていつか大きくなったら着てみたいと思っていたファッション誌の服装を思い出し、デザインの原案を出してみたら四日後にはそれを元にした服が届き、以降定着したのだ。
本当に良かった。色々な意味で。ヘソ出しなんか恥ずかしくて絶対無理。
話は変わり、あの時に仄めかしていたヒューゴの計画。やはりすぐには表立っての動きは特には見えなかったけど、最近はいよいよその時が近いのかちらちらと見え隠れするようになっている。

そろそろ、なのかな。

そういえば一週間後、大きな任務があると通達があった。それがヒューゴの計画と関連があるのかはわからないけど、用心するに越したことはないかも知れない。
なにせあれだけの事件を裏で操った上で、結局はその事実を最後まで決して見せることはなかった程の狡猾さなのだ。何があっても、何が起きても不思議ではない。
そしてエミリオ。その傾向は当初から見えていたのだけど、最近ではすっかりと人を寄せ付けなくなっていた。心を許しているのはマリアンとシャル、それと…自惚れでなければ私と姫も。彼の中の"家族"のカテゴリに入れて貰えてる嬉しさを感じる反面、寂しくも思う。
マリアンや私達以外には特に親しい人間を作らないどころか、普通に接するだけでも本当に必要最低限以外は拒絶し近付く事すらもさせない。
血の繋がった本当の家族との隔絶による歪みは、どうしても彼を絡めて離してはくれないみたい。いつか、彼がそれから解放されてくれたらいいのだけど。

溜め息を一つ、窃盗犯逮捕からの手続きを一通り終えたクノンは、リオンの部屋にある"指定席"で
のんびりと夕食後の紅茶を啜っていた。

「……なんだ、その溜め息は」

「うん、ひねくれたエミリオの行く末が心配で」

そう返してやったら露骨に顔をしかめられた。なにさ、心配なのは本当だもん。

「お前に心配されるようでは僕も終わりだな」

ベッドの上で読んでいた本を閉じながら、素直じゃない皮肉を言うリオンは眠る支度を始める。

「あれ、もうそんな時間?」

「明日は早いからな。お前も置いていかれたくなければ早く寝ることだ」

「遅刻すると容赦なく置いてかれるもんね」

あはは、と苦笑しつつ今までの経験を思い出す。寝坊する度に何度か本当に置いていかれた事がある。幸い、すぐに追い付いているのだがそのあとのフォローが大変だった。

クノンは飲み終えたカップを持って席を立ち上がると、自室へと戻るべく扉に手をかけ。

「おやすみエミリオ、シャル」

『おやすみなさい、クノン』

「……ああ、おやすみ」

返事を聞いて満足したクノンは、そのままリオンの部屋を後にした。

このまま、この平和な日々が続いてくれたらいいのに。そんな彼女の祈りを嘲笑うかのように、その時はもうすぐそこまで迫ってきている。


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