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月へ唄う運命の唄
この世界で。4

ヒューゴは振り抜いた腕を戻し、その手で顎を撫で付けながら目を細めると言葉を続け始める。

「誰に向かって口をきいているつもりだね?…まぁよい。全てはあの忌々しい男を始末するための布石だったのだよ。王の養子となり、権力を得て貰っては私も少々動きにくくなるからな」

つまり、フィンレイ将軍の死はカモフラージュではなく最終目的・本命であり、その他の誘拐事件や人体実験こそが彼の暗殺をカモフラージュするための布石に過ぎなかったのだ。

「さらに言えば、あの実験も今後の為の布石でもある。その為に莫大な資金を投資して研究してきたのだからな。無駄にするわけにはいかん」

この上、何をする気?それにしても、なんて腕力。…うっ、気持ち悪い……

なんとか書物の山から這いずり出たクノンは、体の痛みと嘔吐感に耐えながらヒューゴを睨み付ける。

「さて、現時点での君の疑問は解決したかな?ここからが本題だ」

ニイ、と怪しく口を歪め、まるで手を差し伸べるかのように離れた位置で腕を伸ばすヒューゴ。

「ここまで真相を話した事には無論、理由と目的がある」

「嫌な予感しかしないけど、何?」

「私の軍門に降れ。君にはその資格と力がある……君は選ばれたのだよ、私の理想郷の住人として」

「断る」

即答してやった。誰があなたの下になんかついてやるものか。

そのクノンの返答には予測がついていたのだろう、その答えを聞いてもヒューゴは顔色一つ変える事もなくさらに続ける。

「まぁそう答える事はわかっていたが…後悔はしないのかね?」

「あなたにつく方が後悔する。あなたがした事は絶対に許せない」

「そうか……ならば、私を止めて裁くのだな。それが出来るのならば、だが。近い未来、私の計画は動き出す…いずれにせよ、君"達"は私の掌の上だ」

明らかな嘲笑を残し、ヒューゴはくるりと踵を返すとその場から立ち去って行った。後には散乱した書物の山と、最後まで睨む事をやめなかったクノンが残された。
体についた埃を払い立ち上がるが、すぐにまた膝をついてしまう。殴られた腹部が未だ痛むが問題はそれではなかった。

あいつが、元凶なんだ。奪っていったんだ。沢山の命を、幸せを、未来を。…それに、姫の言った通りならエミリオの父親本人はもう…

そこまで考えた時、気が付いた。
父親は、別の存在に魂を潰され表には出てこれない。母親は生後間もなく亡くなってると聞いている…それはつまり、
・・・・・・・・・・
彼も家族を喪っている。

それもきっと随分昔から。少なくとも、私が来るずっと以前から。そうでなければあれ程寂しげな目はしないし、実の父親にあそこまで怯えない。違う名前を名乗っているのは、ささやかな反抗心からかな。…とにかく、ヒューゴに対して今まで見せた感情は、父親に対する普通のそれじゃなかった。
家族の愛情を、彼は知らないんだ。
と、いう事は。
もしかしたら、マリアンに対しての彼の気持ちは、家族の温もりをあの優しい彼女に求めている内に?
ただただ愛して欲しくて、だからただひたすら懸命に愛そうとして……
だから、マリアンは受け入れてるんだ。単純に応えてあげることは出来なくても、使用人としての出来る限りで、その願いを叶えようとするように。

……私が思ってたより深くて、悲しい恋、してたんだね……エミリオ。

胸をぎゅっと掴む。心臓が握り潰されそうなくらい痛んだような気がした。あんまり痛いから、目が潤んだ。なんだか息が苦しいよ。

――ならそんな二人を、私は守るよ。両親を亡くした私が、この世界で出逢えた大事な二人の妹分として、家族として。ヒューゴに入ったあいつが何をしようとしてるかはわからないけど、もし二人に手を出す事があるなら私は二人の刀になって全力で立ち塞がってやる。
それに、それだけじゃない。挑発に乗るわけじゃないけど、あいつは必ず止める。これ以上誰からも何物も奪わせたくなんてないから。


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あきゅろす。
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