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月へ唄う運命の唄
この世界で。2

「――勝者、リオン=マグナス!!」

審判の兵士が高らかに宣言する。どっと沸く歓声、舞い散る紙吹雪。それらを一身に受ける黒髪の少年剣士は、会場を揺るがす喧騒には目もくれず対戦相手の少女へと手を伸ばす。

「あいったたた…負けちゃった」

少年の手をとり立ち上がりながら、スカートに付いた砂ぼこりをぱたぱたと払うクノン。
フィンレイ将軍のクーデター事件から一ヶ月が経った。今年の剣聖杯は、開催時期にまだ誘拐事件が解決していなかった為に大事を取って延期となっていたのだが、それが解決されて警備態勢等も一層強化される事で再開したのだ。
そしてそこで延期のきっかけとなった昨年の剣聖杯にて、勝敗がつかなかったクノンとリオンは二人で改めて決着をつけるために参戦していた。シード権はお互い使わずに、同じ条件にて剣技のみで戦うと決めて。
二人の対戦は、それはもう圧倒的なものだった。片や正確無比かつ、華麗な剣技で相手に手出しをさせずに勝ち抜くリオン。片や女の身軽さを最大限利用して高速で相手の攻撃をかわし、生じた隙に的確なカウンターを打ち込んでいくクノン。二人の対戦相手達は奮戦虚しく軽々と蹴散らされていった。
そしてそんな桁違いな二人による決勝戦は、それはもう壮絶な戦いとなった。それまでの対戦が全て悉く準備運動に過ぎなかったとでもいうようなハイレベルな攻防、技の応酬に観客達は勿論、蹴散らされた参戦者達ですらも惹き付け、一瞬たりとも目を離せなかった。
そうしてそんな戦いが15分程過ぎた頃、リオンの攻撃を逸らしいなしていた武器が大きく弾かれたクノン。そのまま追い討ちの斬撃によりついにクノンの武器は手から離れ、大きく吹き飛ばされたところに首もとへの寸止めの一閃。
そこでクノンの降参により、息もつかせぬこの戦いは終了した。

「やっぱり巫術なしじゃリオンには勝てないね」

「ふん、当たり前だ」

「そこは少しでもフォローしてくれてもいいような……」

「知るか」

「えー」

などと軽口を叩きあいながら、二人ならんで表彰台に登る。……いや、優勝者のリオンは、クノンより頭一つ分段が高い。そのせいかちょっとだけリオンが嬉しそうだった。

その日の夜、祝勝会として豪華なディナーが振る舞われた。
二人の好物を中心に、マリアンが気合いを入れて腕を振るったという数々の品はどれも美味で、思わず食べ過ぎないように気を配るのが大変だ。

「はー、美味しくて幸せ〜!」

「ふふ、ありがとう。沢山あるから遠慮せずに召し上がって下さいね。リオン様もどうぞ」

「ああ、遠慮なくいただく」

「じゃあそのお皿のはじっこの人参も遠慮なくどうぞ」

にやにやしながら顔を覗き込むクノンを無視しながら、スープに口をつけるリオン。それに少しむっとしたクノンはちょっとした攻勢に出た。

「ほら、あーんして。あ〜ん」

フォークに刺して目の前につきだしてやる。円形にカットされた人参の火の通りは完璧で、手応えがない程にするっと刺さった。これはもうきっと最高に甘くて美味しい。
が、これも無視されたため、今度はリオンが再びスープに口をつけようと、軽く開いたその瞬間を利用して強制的に捩じ込んでやったら、目を白黒させて面白い顔になった。

「…!!!?……っ!!!!」

一瞬にして真っ赤になったと思ったら、どうやら文句を言いたいらしく視殺せんばかりに睨まれた。それでも一応、一度口に入った物は出さずに飲み込むんだから行儀がいいと思う。
好き嫌いはなくした方がいいよって言ったら殴られたけど。痛い。
ちなみにその時、姫もシャルも我慢しきれないのか密かに笑い声が洩れていた。この二人、最近なんだか仲がいい気がする。そしてマリアンはといえば、そんな私達を微笑ましいものを見るように眺めてくる。
楽しい、私達の日常の一コマ。そして、そんな暢気な日々も唐突に終わりを告げる。


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