月へ唄う運命の唄
次元渡航4
「異世界」
「次元歪曲」
「物質転移現象」
…まだ11歳、理解するには少々難しい単語が目の前のメイドの口から漏れる。
はっきり言えば全く意味がわからないが、恐らく自分は大変な目に遭っている。
そんな薄ぼんやりとした自覚が芽生え始めたことに気付きながら、少女はメイドが考えを整理するのをじっと待っていた。
――やがて、考えがまとまったのか、ふと表情が引き締まった彼女を見て、その言葉を聞き逃さぬよう集中する。
「マリアンさん、」
「ん、ごめんなさいね、考え込んでしまって。…いいかしら蒼羽ちゃん。これは私からの大切なお願い…ううん、私との大事なお約束」
「うん」
人差し指を一本ピッ、と立てて真剣な表情で彼女は口を開いた。
「今から説明する事は多分、蒼羽ちゃんには少し難しいお話だと思うの。でも、だからと言って誰か他の人に聞いたりしちゃダメよ。もし言ってしまえば、きっと蒼羽ちゃんが危ない目に遭ってしまうかもしれない。それに、おかしな子、と思われて冷たくされてしまうかもしれない。約束、してくれる?」
「うん」
「だからこれは私との秘密。…でもそうね、きっと何かを解って貰えるかもしれないから私のご主人様…ヒューゴ様には言っても大丈夫」
「うん、ヒューゴ様、だね」
いい子、とどこか安心したように微笑みながら頭を撫でてくれる。
「じゃあ、説明するわね。これは、私にとっても少し難しいのだけれど…――」
そう切り出した彼女の丁寧な説明は、幼い少女にもわかりやすいものであった。
――ひとしきり説明と質問、そして解答の応酬が終わると、マリアンは蒼羽が目覚めた事を報告してくる、と部屋をあとにした。
…私、なんか凄い事になっちゃった…。こんな事、マンガとかの中だけだって思ってたのに。
私が居た所とはすごく遠い遠い場所、…違う世界、だなんて。
お父さん…お母さん…
きっかけとなったものを思い出して、涙が溢れてくる。
多分、もう二度と逢う事は出来ない。生まれついての能力…霊感の強さも、あの時の状況も、全てが物語っている。
残ったものと言えば、肌身放さず持ち歩いていた宝物……まだ上手には扱えないものの、確かな力があると言われた刀の柄・紫桜姫。それと、実家の剣術道場で一人前の証として、誕生日に紫桜姫とともに貰った剣士としての名前・士名『クノン』。
これからどうしたらいいんだろ…
不安と哀しみを含んだ深い溜め息をついた所に、扉をノックする音が聞こえてきた。
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