[携帯モード] [URL送信]

月へ唄う運命の唄
終結と、覚醒8

マリアンに連れられ自室に帰り、シャワーを浴びて汚れを落としてから部屋着に着替えて部屋に戻る。
部屋に設置された机に救急箱を置いて、包帯や消毒薬などを準備していたマリアンと目が合うと、椅子に座るよう促される。言われるままに腰を降ろして治療を受けながら、他愛もない会話を交わす。

「まさかあんなにぼろぼろになっちゃうなんて思わなかったわ」

「ごめんなさい。でも、やっぱり普通の服だと職業上そんなに長持ちしないかも」

「布地の強度の問題、ね。わかったわ。そこさえ問題なければいいのね」

…え゛。いや遠回しにあんまりフリフリでふわふわなお嬢様ルックな感じはやめてって言ったんだけど。

「じゃあ次は騎士のアンダーウェアにも使われる強化繊維を織り込んで……アンティークレースももっとこう、(以下略)」

あぁあ、なんか加速してる!なんかダメな方に加速してる!!いや私としても可愛い服は大好きだけど、ヒラヒラ多いと動きにくいしちょっと恥ずかしいから勘弁して欲し……って、ちょっと何笑ってるの紫桜姫!?

『ぷ、くく…ふふ…諦めなさい。女は着飾るものよ?』

他人事と思って!ていうか、もしかして朝もそうやって笑ってたんでしょ!?ずっと起きてはいたみたいだし!

『さぁどうかしら?……ふふ。』

い・じ・わ・るー!

ぎゃあぎゃあと脳内で会話していると、どうやら手当てが終わったらしい。救急箱へ道具を仕舞い蓋を閉じる音がした。

「さ、終わり。新しいお洋服は、明日には注文しておくから楽しみにしておいてね?」

「くれぐれも、お手柔らかにお願いします……」

くすくすと楽しそう笑いながら、おやすみなさいと部屋を出ていくマリアンに嘆息する。

「紫桜姫もあんまりからかわないでよね」

『いいじゃない。似合わない男装なんてするより余程いいわよ』

「まぁそうだけど…。しお、…………なんか言いにくい。ねぇ、姫って呼んでもいい?」

『姫…ふふ、いいわ』

少しだけ懐かしむように笑う紫桜姫を不思議に思うが、それよりも聞いてみたいことは沢山あった。
まず、紫桜姫が何者なのか、だ。通常、巫力を流し込んで半妖化するとはいえ、式刀がここまではっきりと意識を持つ事はない筈。元の世界の家にあった巫術の指南書にもそんな記述はなかった。解放した時には、状況が状況だっただけに多少驚きはしても質問している暇はなかった。

それについて紫桜姫は自らの正体についてこう語った。

『私は元々、人間よ。生きていたあの時代の中、それなりに強い力を持っていた巫女だった私は、自分の魂をこの刀に移したの。器になったこれは、私が使っていた式刀』

「そうだったんだ…だからそんなにはっきりと意志があるんだね」

『えぇ。貴女に"布都御魂"の式を渡すまでにかなり時間はかかったけれど、これで漸く力になってあげられるわ』

そう、起動に使った刀身を創造する術式は、クノンが編み出したわけじゃない。召喚契約で融合していた身の内から、あの時唐突に脳内に流れ込んできたのだ。クノンはそれをなぞり使っただけ。

「なんか、ますますリオンでいうシャルに似てるよね…意思を持つ刀だなんて、まるでソーディアンみたい」

『実際、よく似ているわよ。人格の投射…つまり複製と言っているようだけど、あの剣にもちゃんと魂が宿っているのだから。創った者は余程魔術に精通しているようね…あれはそれをさらに機械的な技術で強化・補強されてるようだけど、そこは専門外だからよくわからないわ』

「へぇ……あ、だから姫にはコアクリスタルに宿ったシャルが見えてるんだ。幽霊同士」

『それは単純に貴女より目がいいからと言いたいけれど、身も蓋もない言い方をしたらそうなるわね』

そう言って苦笑する紫桜姫に、クノンも笑う。

……うん、なんだか上手くやっていけそう。

そう感じるクノンと、長い時間を経て覚醒した紫桜姫との会話は、その日夜遅くまで続いた。まるで久しく会わなかった家族であるかのように、それまでの隙間を埋めていくかのように。

next.....
2012/12/23

[*前へ]

8/8ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!