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月へ唄う運命の唄
終結と、覚醒5

どうか次に生まれて来る時には、幸せな人生を送ってね。それまで、ゆっくりおやすみ。

閃光に包まれ消えていく子供達を見送る。紫桜姫の力で、レンズに取り込まれ汚染された穢れは祓った。残ったあの子達を使って、誰かに悪用されないようにと火葬のかわりに巫術で葬った。

これで、やるべき事は終わった…かな。

安堵とともに、気力で立たせていた脚から力が抜ける。その場に座り込んで手の中にある紫桜姫に目をやった。
今はもう創り出した刀身は消え、いつものように柄のみの姿。だが、彼女とのリンクは繋がったままのようだ。

『お疲れ様。よく出来たわね』

柔らかな声。どこか懐かしくて、けれど不思議な感じがする。

紫桜姫は、元々式刀だった。だから羽姫のように昇華の儀式をする必要はなく、リオンに晶術の講義を受け始めてから割と直ぐに召喚契約が出来た。クノンの腰にある契約印・青い痣がそれだ。
クノンが紫桜姫を眺めていると、少し神経質そうな靴音が背後から近付いてきた。この感じはリオンだ。

「そちらも片付いたようだな。立てるか?」

「ごめん、ちょっと無理」

苦笑いしながら振り向いて彼の顔を見ると、なんだか複雑そうな表情をしていた。

「それは、あの刀身がない方か」

「うん、紫桜姫っていうの」

『こんにちは、坊や達』

「は?」『え?』

リオンとシャルが同時に驚いた声をあげた。あれ、声聞こえるの?契約主の私はともかくとして。ていうか、坊や"達"?

『け、けけけ剣が喋った!?』

いやそれをあなたが言うか。

「ソーディアンなのか……?いやそれにしてはコアクリスタルが見当たらんが」

『驚いたかしら?そちらの銀髪の子……シャルティエさん、といったかしら?貴方とは同じようなものよ、今の私は』

『銀髪……それ、僕のオリジナルですよ!なんでわかるんですか!?』

『私には"見えている"もの。可愛い顔を面白くしてる今もね』

くすくすと上品に笑う紫桜姫に、クノンを含めた二人と一本は戸惑いを隠せない。
と、そこに男の苦し気な呻き声が聞こえてきた。そちらに目を向けると、瀕死のガルマが少し離れた位置で倒れている。

「あの男は……」

「?リオン?」

手を貸して貰いながらガルマの傍へ行く途中、呟いた彼の表情は、少し驚いているように見えた。

「結局、こうなっちまったか……」

ガルマのすぐ脇に座り、荒い呼吸を繰り返す彼を眺める。もう、長くない。

「久しぶり、だな。小僧。……まぁこんなモンか。これデ……やっと帰、レ、る……ミー、ナ……リナ……」

ことり、何かを掴むように伸ばされた手が力を失い落ちた。ほどなくして、彼の身体が色彩を失い透けていき、その場にはレンズが一枚残された。

「……ミーナとリナ、というのは彼の妻と娘の名だ」

元七将軍つきの七人の直轄部隊長の一人だったガルマは、心身ともに素晴らしい騎士だった。だが、数年前に突如家族ともども失踪している。そしてその後、妻と娘は遺体となって発見されたが、彼自身は依然として行方知れずだった。

「恐らくは家族を人質に取られ、何者かに利用されていたんだろう。だが何らかのトラブルが起きて妻子が殺され、その時彼も壊れた。もしかしたら、死に場所を求めていたのかもな」

語るリオンの拳は、固く握られていた。

「そう」

それでも。どんな理由があったとしても、彼がしていた事は到底許される事じゃない。
ばきん、とレンズに電気を流して焼いてやる。
なんだか、やりきれない。奪う者だった彼もまた、過去に大事な者を奪われていた。なら、この連鎖を作った本当の略奪者は誰なんだろう。
疑問は残るけれど、今はもう考える力も残ってない。


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