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月へ唄う運命の唄
終結と、覚醒4

団子のように膨れあがった巨体を砲弾のような勢いで転がし、体当たりしてきたモノを刀の鎬(横側)で受け止めた時だった。
ぱきり、と羽姫の刀身に亀裂が入ったかと思うと、次の瞬間には真っ二つに折れてしまったのだ。
そして支えを失ったクノンは、体当たりの直撃を受けて吹き飛ぶ。
もう何度目になるだろうか。
受け身も取れずに床を弾んでは回転したまま壁にぶち当たり、漸く停止する。
もう起き上がる体力もなくなっていた。口の中は血の味でいっぱいだ。

羽姫、が……。ごめんね、弱い持ち主で……。

服も身体もずたぼろ、ガルマとの戦いで一度限界まで強化を施した反動もある。その上でこの数を相手に防戦一方の戦況。
一体一体は大した強さはなくとも、その数は10や20ではないのだ。

このまま、私、死ぬのかな?……エミリオはどうなったのかな……?無事だといいな。

獲物の動きを止めた事で、激しく動き回っていた異形のモノ達はトドメを刺そうと注意深くにじり寄ってくる。

『―――』

え?

『――めな―、―ら』

優しい、声が聞こえる。鈴を転がすような美しい女性の声が、頭の中でこだまする。

『諦めないで、私は此処に居るから』

ふわりと、身体の奥に熱が灯る。何処かで嗅いだような、優しい薫りが鼻孔を擽る。

『さあ、呼びなさい。……喚びなさい。私を、貴女の可憐なその手に』

――そうだ。もう一つ、あるじゃないか。私の、大切な宝物が。

「顕現せよ、紫桜姫。神たる刃にて、魔を浄化せん……布都御魂の名の下に」

ふらつく身体を、壁に手をつきながら立ち上がらせる。そして、もう一振りの刀をその腰から静かに抜いた。
紫色の絹を纏った柄、迸る閃光を凝縮した雷光の刀身……もう一つの式刀・紫桜姫を。

『よく頑張ったわね……もういいのよ。安らかに、眠りなさい』

どこまでも優しい声音が響く。その声の導くまま、クノンは刀を振るうべく異形の中へと突撃していく。
"斬る"という感覚は殆ど感じられなかった。ただ空間を走らせ、通り抜ける。あれだけ躊躇していた攻撃が、不思議な程に容易く振るわれていく。
         ・・
その理由は恐らく、今は傷つける為の攻撃ではないからに違いない。それは穢れを祓い、導いていく為の剣。


――目の前の光景に、心を奪われたようだった。
否、きっと奪われていたのだろう。

僕らが廃村に潜んでいた伏兵の数に手こずりながらも、なんとか全てを倒し取り抑えて体勢を立て直し。そして本拠の屋敷へと突入。
ときどき響いてくる振動や低い轟音を感じながらもクノンが戦っているであろう部屋を目指して突き進んだ先では、予想外の光景が拡がっていた。
どういうわけか尋常ではない数のモンスターを相手にし、防戦一方のクノンがいた。あいつならあの程度の連中相手に手こずるはずがないし、普段なら瞬殺しているはずだ。
だが彼女はそう出来ないようだった。
そう考えている内に、刀を折られたクノンが吹っ飛ばされ壁に激突。そのまま暫くぴくりとも動かなくなったので、我に返った僕が慌てて部隊へ突撃命令を下そうとした時だ。
一瞬、目の眩むような激しい閃光が視界を包んだ。刺激による痛みを堪えながら何事かと部屋の中へと向き直ってみれば、今度はいつの間にか出現させていた雷光の刀を手に次々にモンスターを斬り飛ばしていくクノンの姿が目に入った。
輝き放つ刀を、舞うようにして軽やかに振るうその姿は、ただただ美しいと評するに相応しかった。
後ろの兵達もどうやら皆、言葉を失っていたらしい。全員、その戦いを固唾を呑んで見守っている。

そうして、やがて部屋の中に居た夥しい数のモンスター達は、大量のレンズを残して全て消え去っていた。
彼女は残されたレンズをまるで悼むようにして一枚も余すことなく丁寧に集め、一纏めにして部屋の中央へと移動させると、小さく何かを呟く。

――建御雷神。

天より降り注ぐ光の奔流が、その場にあった大量のレンズの山を消滅させた。
僕にはその光景が、何故だかとても神聖な儀式のように思えたんだ。


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