[携帯モード] [URL送信]

月へ唄う運命の唄
終結と、覚醒3

だがそれはひとえに、ガルマ自身の武才による割合が非常に大きい事もわかっていた。
恐らくは融合がなくても、相当に強い。さらにいえば、単純に戦闘経験の差もあるだろう。クノンも客員剣士見習いとしてそれなりに実戦経験を積んできてはいるが、何せ本格的な命のやり取りをするような実戦はこの世界に来てからの一年程しかないのだ。
対してガルマは見たところ三十歳代前半。初陣がいつだかは不明だが、少なくともクノンとは天と地程の経験の差があろう。
それでも、その差をまがりなりにも埋めて渡り合っていたクノンの武才も相当なものではあるが。

「どうやラ、ムキになッテ融合ヲ進め過ぎちマったらしい。もう俺ァ限界ダ…だが、コれで俺の勝チだ」

その言葉通りどうやら彼も限界らしい。もう魂の殆どをレンズに吸収されてしまっている。だがクノンの背後に血走った目を向けたガルマが、ニヤリと口角を上げた。

「ガルマ様!起動しました!」

その声に気付いて振り返ると、先程の男が大勢の子供達を引き連れ部屋の入り口に立っていた。
なにやら子供達の様子がおかしい。みな小刻みに震え、小さく呻き声を洩らしている。……と、先頭に立っていた少年の腕が、突然弾けた。
ばつん、と聞いた事のない音を立てて皮膚が破けた少年の腕は、どす黒く変色しみるみる内にその形を変え、蛇のような質感を持った触手のようなものへと変貌を遂げる。その表面は体液か、粘性の高い液体がまとわりつき、床へと滴っている。
変化は腕だけではない。頭、胴、脚…五体全てが異形の怪物へと変わっていく。
しかもその変化は、男が連れてきた少年少女全てに起きていた。皮は裂け肉は踊り体液が撒き散らされ、子供たちの悲鳴が、断末魔の叫びがクノンの脳を支配していく。

「な!?………なっ……!?」

何、何が起きてるの?今、私の目の前で、一体何が起きてるの?やめて。悪い夢なら早く覚めてよ。こんなの信じたくないよ。……こんなの、嫌だよ……!!

どさり、と背後で誰かが膝をついた音がした。だが、そんなものは最早どうでもよかった。それよりもこの目の前の悪夢からどうしても目が離せなかった。

――やがて、その場にいた少年少女全ての異形化が終わった。ある者は触手をバタつかせ、ある者は鋭い牙を生やし、またある者は醜く膨張した肉塊のような体を震わせながら、獲物であるクノンを空虚な瞳に捉える。

――来る!?

直感で理解した。現に瞬き一つの間に彼らの体は既にこちらへと動き始めていた。

だが。

だ、め…だめ、だよ…!

鞭のようにしなる腕が空気を切り裂きながら、心臓を貫かんと凄まじい勢いで伸びてくる。それを寸での所で回避し、力の入らぬ腕に活を入れて切断しようと刃を向ける。
が、振り抜こうとした刀が止まってしまう。隙を見せたクノンに、かつて子供だった異形のモノは伸ばした腕を横凪ぎに振るい、頬を容赦なく殴り付ける。
そのハンマーで殴られたような衝撃に耐えきれず小さな体が吹っ飛ばされ床を転がるも、なんとか身を起こし、羽姫を杖がわりに立ち上がる。

「ぁっ……グ、痛う」

今の一撃で床を転がされた時にあちこちぶつけて痛い。頭がぐらぐらするし、手足が震えて力が入らない。戦わなきゃ、殺されるのは目に見えてるのに。
でも、斬れないよ。斬りたく、ないよ。あんな悲しい死に方をした子達を、これ以上傷付けたくなんかないよ。

なのに聞こえてしまう。苦しい、助けて、逃げて、殺して……と、そんな声が、想いが。

レンズに囚われた中、最早人ではなくなった肉体の奥底で、使い捨てられた子供達の悲鳴が……今なお僅かに残った、純粋な魂の叫び声が。

獣のような咆哮を上げて襲い来る数々の攻撃をなんとか凌ぎながら、聞こえてくる訴えに縛られて逃げる事も攻撃する事も出来ない。
そして防戦一方となったクノンに、破滅が訪れる。


[*前へ][次へ#]

3/8ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!