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月へ唄う運命の唄
終結と、覚醒2

「……償え」

握り締めた羽姫を再度振り抜こうと構えたその時、甲高い音を立てて外に居た見張りの男が勢いよく部屋に飛び込んできた。

「ガルマ様!今の声はいった……ヒッ!?ば、…化け物…!!」

室内を見回している内にこちらを見た男がびくり、と後退る。一歩、二歩と、まるで猛獣を前にした獲物が、捕食を恐れるかのように。部屋の中央付近で刀を構える、光る蒼い瞳の少女を目にした途端、本能的な恐怖に縛られる。

「……グ、おいオ前!あいつラをこちらに連れてこい!装置を使エ!!」

部下に気付いたガルマは、痛みを堪えながら怒鳴り声を上げる。よろよろと立ち上がると、まっすぐにクノンを睨み付ける。その間に我に返った男はバタバタと逃げるように出入口から姿を消していった。

「小娘ェ…どこからソれ出しヤがった…?ソんなでけぇ武器なんか出しやがっテ…」

「……」

五月蝿い。あなたにそれを答えてやる義理なんてない。それに、すぐにどうせ"教えるだけ無駄になる"んだから。

「急急如律令」

質問を無視して式を構築、切り裂く動きを鍵にして発動するは真空の斬撃。振り抜いた羽姫の剣筋から射出された刃が、憎き敵の首を両断せんと空間を走り抜けていく。
だが、危険を察知したのか、その攻撃範囲から外れるよう身を転がして逃れたガルマの右肩を薄く裂くに留まった。そして彼は素早く身を起こすと、腰に帯びた長剣を抜いて身構える。

「腕をヤってくれタのはそれか!クッソ聞いてネぇぞ、この化け物め!!」

化け物、ね。そう呼ばれるのはいつぶりだろう。まぁそれはさておいて、さすがに二度は通用しないか……ならこれは?

左腕を前に掲げ、右手で弓を引く動き。それぞれの指先から小さく電光が迸ると、それらは直ぐに束ねられ弓矢を形成。そして限界まで弦を引き絞り――射る。

「うおオ!?」

音速を超える速さで放たれた雷撃の矢は、しかしその射線を見切られ背後の壁を貫き、屋外へと消えていった。

――まだまだ。紫電弓・連弩。

一発で仕留められないのは百も承知。弓の訓練なんてしていないのだから、中らなくても仕方ない。なら、中るまで連射してやればいい。

射ったはしから次を射つ。射つ。射つ。幾条もの雷光がガルマ目掛けて飛んでいく。速度もさる事ながら、貫通力に特化したその威力も高い。数センチ程度の鉄板なら豆腐のように貫通していく矢が、次々に部屋の壁を直径約3センチずつくり貫いていく。
しかし、なかなか中らない。どころか、どうやらこちらの攻撃に慣れてきたらしく、肌を掠めながらも少しずつ間合いを詰めて来ていた。
レンズと融合している事で反応速度も身体能力も、並みの人間を遥かに超えている。

なら、これで!

最後に数本纏めて矢を放つと、その弾幕に隠れこちらからも間合いを詰めるように走り出し、羽姫による斬撃を繰り出す。
だが相手も矢を紙一重でかわしては羽姫に己の剣をぶつけて防いでしまう。ばかりか、こちらの攻撃を叩き落とす勢いで反撃を行ってきた。

「ハァアアアアアッ!!!!」

「オォォオオオオッッ!!」

金属同士の鋭い激突音が幾重にも響く。何度も何度も激しく重なり続ける音は、一音一音の間を刹那の間にまで縮め…それらはやがて、一つの爆発にも似た甲高い音となり大きく弾けた。
それと同時に互いに間合いを取って睨み合う二人。

ほんと、強い……限界まで身体強化しても押し切れないなんて。腕を一つ失って、バランスがとれない筈なのに。……ハハッ……手の感覚がないや。

息が上がる。相手の攻撃は直撃こそしていないものの、いくつかは服を裂き白い肌に薄く紅い筋を刻んでいた。

「はぁっ、はぁっ…ほんと、しつこい…!!」

「フゥっフゥ……そりゃこっちのセリフだ。お嬢さん、人間超えてンぜ……」

それこそそのままお返しするよ。レンズとの融合によるモンスター化が、こんなにも強力だなんて。


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あきゅろす。
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