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月へ唄う運命の唄
次元渡航3

「ここ、日本じゃないの?」

「ニホン?」

思わず聞き返してみれば、女性は僅かに眉根を寄せ、困ったように小首を傾げる。

「…国か村の名前、かしら?ごめんなさいね、私は聞いた事もないわ」

「…日本じゃない…」

知らないうちにどこか外国にでも運ばれてしまったのだろうかと、蒼羽は知りうる限りの外国の名を挙げていくが、全ては悉く徒労に終わる。
彼女は日本どころか、自分の知っている国、それもかなりメジャーなはずの国ですら知らないと言う。常識的に考えて有り得ない。
さらに今自分が居る国は世界で最も栄えているとされる巨大国家、それこそ知らない事が有り得ないとさえ驚かれてしまった。

――『互いが互いに常識が通用しない現実』、具体的に挙げれば、『在る筈の国が存在せず、無い筈の国が存在する』――……

ふと辿り着いたあまりに突飛過ぎる結論に、少女の相手をしていた黒髪のメイドは目眩を覚える。
それこそ有り得る筈が無い……けれどそうとしか考えられない……

「異世界…!?」

そんな馬鹿な。

確かにこの少女は運ばれて来た当初、それなりに知識を持つと自負していた自分でも見たこともない服装、それも未知の生地が織り込まれたものを着ていた。(現在は怪我もないのに何故か少女の服が大量の血に染まっていた為、客人用の寝間着を着せている)
セインガルドやフィッツガルド等、当然の如く知っている筈の国や地名も知らない。

だからと言って…

だが、そこまで考えてふと気付いた。時折主人であるヒューゴや、彼の経営するオベロン社の幹部達が口にしていた言葉を思い出したのだ。

「次元歪曲による物質転移現象…」

自分は科学者でもなければ専門家でもないが、当てはまるとすればこれが一番妥当な解答。現に少女の持ち物にも未知の素材で出来たものがあったのだから。
これはまた、この年端もいかない少女に理解出来るように噛み砕き、説明するのが難しい事象に出会したものだ。何せ自分でさえも理解を越えた現象なのだから。
詳しくは、恐らく独自に調査をしているであろう主人に任せるのが正解。そして今自分に出来る事があるとしたらそれは、この事実をなるべく他人には漏らしてはならないと、少女に諭す事だろう。
そうでなければ一般人には混乱を与え、ともすれば珍しい生き物として、人身売買など犯罪の犠牲になりかねない。

この子を見世物なんかにしてはならない。させない。

彼女は、いち良識のある"人間"として、早速行動に移すことにした。


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