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月へ唄う運命の唄
捧げよ。5

そしてその後に起こったのは、会議室全体を揺らす程の一般兵達全ての驚愕の声だった。
無論、それはクノンと顔見知りであるゼドを始めとした任務を共にした面々も例外ではなかった。
何せ剣の腕自体は知ってはいるものの、こうしてクノンが起こしたはっきりとした魔術的現象は初めて目にしたのだから。
今の今まで、実戦で使うにはまだ不安定と判断していたリオンに巫術の使用を禁じられていたからだ。

「…と、こんな特技があったりします」

びっくりさせようとは思ったけど、こんなに騒がれるのはちょっと予想外かな…。みんなリオンの晶術は見てるはずなんだけど。

クノンも内心このリアクションに少々面食らってはいるものの、なんとかそれを飲み込んだ。そしてまた落ち着いてくる頃を見計らってリオンが口を開く。

「改めて言うが、皆も見た通り剣の腕は確か。加えて彼女には特別な力もある。それ故のこの地位だという事を理解願いたい」

室内を見渡しながら、一人一人の表情を確かめるようにして言葉を紡いでいく。
ここに居る兵の中で、もはやクノンの力を疑う者は誰一人としていなくなっていた。それほどのインパクトであったのだ。

――そうしてクノンの秘密の一端を明かすことも含めたこの作戦会議は、最後に再度流れを確認した後に解散となった。

『いやぁ、凄かったですね、皆さんの反応。それにやっぱりクノンは、ちゃんと女の子の格好をすれば凄く可愛いですし』

兵達の雰囲気に少々当てられでもしたのか、やや興奮気味にシャルティエが話しかけてくる。

「あはは。ありがと。でもなんだか自分ではあまり似合わないって思う。それにスカートなんて久々過ぎてちょっと落ち着かないし」

『そんな事ないですよ!ほら坊っちゃんも似合うと思いますよね?』

「……馬子にも衣装とはよくいったものだな」

ちらりとこちらを見たかと思えば、すぐに前を向き視線を逸らされてしまった。

「ほらやっぱり」

それを聞いてがっくり肩を落とす。ついでに何故か少し悲しくなってきた。

「だが、さすがマリアンの選んだものだけはある。お前のそういう女らしい服装は初めて見たが……悪くない」

え、それって。

「大丈夫ってこと、かな?」

言葉では答えてはくれないけど…なんだか少し柔らかな表情。うん、そうなんだ。

『坊っちゃんも本当に、素直じゃないですねぇ』

そんなシャルの呆れ気味な一言に苦笑をしていると、気付けば城門近くまで来ていた。

ここからは、一人離れて囮となるべく単独行動となる。日の出の時間を少々過ぎた今は、朝日がもう顔を半分以上出してしまっていた。
否応なく、緊張が高まっていくのを感じる。

「僕はここまでだ。いいな、まずは教えてある通りの抜け道を使って住宅街まで行き、指定の空き家で昼頃まで待て。そして時間を稼いだら散歩するように裏路地をある程度多用しつつ歩くんだ」

「拐うなら、人目は避けたいだろうしね」

「その通り。そして食いついてきたら怪しまれないように乗っていけ。アジトに着いたら一度通信しろ。僕が兵を連れて周辺を押さえ、包囲網が完成次第連絡する」

「そして可能なら内部から侵入経路を確保しつつ撹乱、だね」

「よし。では僕は戻る。……気を付けろ」

『ご武運を』

最終確認を終え、互いに背を向けて歩き出す。
いよいよ、作戦の開始だ。


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あきゅろす。
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