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月へ唄う運命の唄
捧げよ。4

さすがに一年も通えば道に迷うこともなくなり、クノンは順調にダリルシェイドの城門をくぐる。
そのまま内部の大広間を抜けて脇に入り、"会議室"と書かれた部屋の扉を叩いて到着を知らせると、中からどうぞと声がかかったのでなんの躊躇いもなくその部屋へと足を踏み入れた。

その瞬間、室内の空気がざわめいた。

「あの、お嬢さん…?こんな時間にお散歩かな?…いや、それよりどうしてこんな所に?」

わかる、わかるよその気持ち。だって私自身思わず誰?って訊ねたくらいなんだから。

心中で頷きつつもこちらの身長に合わせてくれたらしい、かがみこんだ兵の顔を見上げると、少しばかり懐かしい顔が目に入った。

「あれ…?あなたは。…お久しぶり。あの時以来だね」

それはあの初討伐任務の時の四人の内の一人、ゼドだった。

「………は……?…ってまさか、まさか君は、いえあなたはクノン様ですか!?」

ずざざ、と後退りしたかと思えば、限界まで目を見開いて仰天するゼド。

「そんなに引かれるとさすがの私もちょっぴり傷付くなぁ。…ごめんね、似合わなくて」

「あ、い、いいやあの、よよよよくお似合いで!?…といいますか、もしかして!?」

「落ち着け。…周りの者どももだ」

混乱の極地に居るゼドを軽くたしなめると、リオンはクノンに前に出るよう促し、会議室の最前部中央に立たせた。

「さて、つい先程説明した通り、こいつが今回この作戦にて囮兼陽動役を務めることになった僕の補佐、クノンだ。作戦上、このような格好をしているが、これは決して女装ではない。"彼女"はれっきとした女性だ」

リオンのやや低めではあるが、特徴的なよく通る声が会議室全体へと響き渡る。
すると再び、室内には戸惑いを露にしたざわめきが拡がっていった。

こんな女の子が作戦に…?
しかもこんなかよわそうな子が客員剣士見習い補佐だって?
おいおい冗談はやめてくれよ。

そんな半ば予想通りの反応に、クノンは苦笑を隠しきれなかった。

なるほどね。確かに、ヒューゴ様やリオンの言った通りだ。私みたいな子供の、しかも女の子が自分達より上の地位に居るのは信じられないみたいだね。

「静まれ」

リオンもこれは当たり前の反応として受け入れていたのか、ざわめきが少々落ち着いてきたところで一声かけ、続ける。

「確かに僕を始めとして、こんな子供に客員剣士が務まるのかは皆が疑問に思う所だろう。だが、ここに集まった者の中には僕や男装していた彼女とともに任務に就いた経験のある者も少なくはないはずだ」

それに賛同するような頷きが、多数見てとれた。そんな彼らは確かに、一度は討伐任務などに赴いた時に見た顔だ。

「彼らならばわかるであろうが、その剣の実力は折り紙つき。…そうだろう?ゼド」

「はっ。その通りです。…正直な話、リオン様は勿論クノン様にも、我らが束になってかかったところで勝てる気は一切しません」

そのゼドの言葉を受けてまた少しざわめくも、それを手で制したリオンはクノンへと目を向け、一つ見せてやれ、と合図した。

……いいの?じゃあちょっとびっくりさせちゃえ。

「ご紹介に与りましたクノンです。では、上官より許可が出ましたので一つ、私の特技の一部をご覧にいれましょう」

そう言うとクノンはスカートのポケットから紙切れを二枚取り出すと、それを飛行機型に折りそれぞれ順番に宙へと放る。
そして、次の瞬間。
一つ目の紙飛行機は、何もない空間から抜刀された刀による斬撃により、細切れの紙吹雪となって散った。
二つ目の紙飛行機は、彼女が口の中で何事か呟いた瞬間発生した小さな稲妻によって焼かれ、瞬く間に消滅した。

時が凍ったかのような、沈黙。


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あきゅろす。
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