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月へ唄う運命の唄
あなたと、――と。4

無骨な城門を通り抜け、城下町へと足を踏み入れる。商店の立ち並ぶ地域まで来れば、ちょうど夕方にさしかかってきたこの時間は人が混み始める頃合いだ。
景気の良い客引きの声があちらこちらと元気よく飛び交い、楽しそうに談笑する婦人達の声やはしゃぎ回る子供達の声もそこかしこに溢れている。平和なダリルシェイド城下町の、いつもの光景。
だが、その裏側では人知れず涙を流し、無念に悶え苦しむ者達が居る事を知った二人の年幼い剣士の表情は対称的に酷く暗い。

―…コロシアムに突如発生した落雷はやはり少々城内にも影響を与えていたらしく、有り得る筈のない現象の観測に学者達が研究室を基点に城内を駆け回っていた。
二人はまず研究室へと出向き、責任者へと事情を説明したところで学者達の混乱はひとまず終息した。
次に七将軍筆頭、ドライデン将軍経由で王の謁見許可を得、落雷騒ぎの経緯を改めて説明し、特に問題はない事を報告する。
王への報告が学者達より遅れたのは、謁見許可から実際に謁見出来るまで待ち時間が空いたからだ。無論先に将軍へ申請を出してから学者達の居る研究室へと向かっている。
そうして一息ついたところで、二人はとんでもない事実を聞かされる事になった。

曰く、今からちょうど一年前に起きた剣聖杯襲撃事件、あれほどまでに堂々とした大規模な拉致事件はあれ以来はないものの、"未だ散発的に起きている"という事であった。
月に2〜4件程度の頻度で、子供達の行方不明事件が起きている。…勿論、ただの迷子であったり、反抗期の少年少女の短期的な家出であったりして無事に保護されるケースもあるが、それらを除外してもこの数というのは、やはり不自然で多すぎる。
あの時の襲撃事件では首謀者は捕まっておらず、捕縛した捕虜達も9割がた自害するなどして情報を引き出すことが非常に難しかったのだ。
…だがここへきて漸く、その尻尾が見えた、その本拠が割れた、との事であった。
勿論、こんな話をただの世間話として聞かせる程この国はおめでたくはない。
二人を客員剣士、及びその見習い補佐として任務を与えるための予備知識・事前情報として聞かせたのだ。
つまり、この事件を解決するための主戦力としてかの首謀者率いる罪人達の巣へと投入する為に。

―…そのような経緯を経て、歩く二人の表情には影が降りていたのだ。

「…知らなかったね」

「…ああ。そうだな」

「絶対、捕まえなきゃね」

「…ああ」

知らなかった事を悔いるより、知った後に何を成すかが重要なのは、頭ではわかってる。でも、それでも考えずにはいられないんだろう。

ボクも、そして隣に居るリオンも。

ボク達が日々、何も知らずに毎日を過ごす裏で、どれ程の悲劇が起きていたんだろう。
可愛がって一生懸命に育てた子供が、ある日突然姿を消して。
親は必死に探し回ったに違いない。国へ報告して協力を仰いだりもして、知り合いづてにも協力を願って、それでも足りずにやはり体がぼろぼろになるまで探し回っても、見つからない。
そうしてその絶望に心も磨耗して、それでもまた一縷の希望にすがるように体を動かして、見つからずまた絶望して。

延々と、絶望に絶望を重ね続けたに違いない。
     ・・
今は亡き、私の両親ならきっとそうしただろう。目の前で二人の死を目撃せずに、ただ居なくなっただけならば私だってそうしていたから。…それだけ愛された自覚もあるし、私も負けない位愛していた。
そして引き剥がされた子供達もまた、同じように絶望に絶望を重ね続けているに違いない。
そしてその絶望に耐えきれずに自ら死を選んだ親と子もいたはず。

……許せないよ。

絶対に絶対に、許せないよ。


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