月へ唄う運命の唄
次元渡航2
「ん、んぅ…?」
目覚めると、そこは記憶の上ではつい先程まで居た山の中ではなく、柔らかなベッドの上だった。
ここ、何処だろ?さっきまで、確か私…
――…ズキッ
「っ!?」
なんだろ、頭が痛い。どこかで打ったのかな。
こめかみの辺りを押さえながら、周りを見回してみると、ベッドの脇には持っていた"宝物"と折り畳まれた服らしきものがテーブルの上にあるのが目に入る。
「目が覚めたかしら」
柔らかく、澄んだ優しい声がした方を見てみれば、小さな桶を持った女性が扉を開けて部屋に入ってくるところだった。
女性は静かにベッドの脇まで来ると、桶をテーブルの上に置きながら柔らかく微笑みかけてくる。
「安心してね。此所はヒューゴ様のお屋敷にある、離れの部屋。あなた、雪山の中で倒れていたんですよ」
雪山?そう聞き返すと、やはり女性は安心させるように微笑みかけながら質問に答える。
「えぇ。…あら、いけない。自己紹介が遅れたわね。私はこのお屋敷でメイドとして働かせていただいている、マリアン=フュステルと申します。もしよかったら、あなたのお名前を聞かせて貰ってもいいかしら?」
「如月 蒼羽…」
「如月 蒼羽…?ファーストネームが後、なのかしら?変わったお名前ね」
あ、そっか。すごく日本語が上手だから思わず普通に言っちゃったけど、名前を先に言わなきゃなんだね。
…そう、日本人と会話をしているかのように極々自然に目の前の女性は名乗っていた。その言語は、蒼羽にとっては確かに日本語に聞こえていたのだ。
「名前が後、です」
宜しくね、と笑いながら頭を撫でてくれる。まるで母親に撫でて貰ってるようで、不思議と安心感がある。
ひとしきり撫でて貰いながら、自分の年齢など質問に答えていると、ふと気になることがあった。
そもそも、此所は何処なのだろうかという疑問。先程女性はヒューゴ様のお屋敷、と言っていた。ヒューゴ、というのは人の名前だろう。でもそれは地名じゃない。気になるので訊いてみることにした。
「あの、此所は何処なの?」
「此所はセインガルド王国の首都、ダリルシェイドという所よ」
「…え…?」
…その質問の答えはまるで予想もつかない、聞いた事の無いものだった。
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