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月へ唄う運命の唄
あなたと、――と。2

その日、ダリルシェイドに雷が落ちた。

その輝く光は瞬間的に付近の世界を白く塗り潰し、衝撃は落下地点にあったものを消し飛ばす。それでも足りずに、周囲の地面を抉り直径数メートル程度のクレーターを形成する程土砂を巻き上げる。鳴り響く轟音は衝撃波となって突風を巻き起こし、浮いた土砂を弾丸のような勢いで飛び散らせた。
落雷という自然現象自体はさして珍しいものではなく、無論この世界においても年に数回はどこかしらで起きている。激しい嵐などが起こればその発生確率なども上がるであろう。
ただ問題は、その日のセインガルド領はきわめて晴天であり、洗濯物を干すには絶好の天気であったこと。さらに不可思議なことに、落雷が発生する一瞬前までは自然的予兆は一切なく、発生後はやはり何事もなかったかのように快晴が続いている事だ。
そして、その落雷現場には二人の子供が居た。

「………あ〜…」

間の抜けた声がその内の一人から漏れでる。長い髪を頭の後ろ側で一つに纏めたポニーテールに、腰に差した身長には不釣り合いな長さの太刀が印象的な、見た目幼い少年のような装いの少女だ。
と、その少女の頭頂部に豪奢な銀の拵えの西洋剣が、凄まじい勢いで鞘ごと叩き付けられた。

「いだぁっっ!?〜〜〜っ」

容赦ないチョップをもろにくらった少女は、頭を抑えて涙目で蹲り、必死に痛みに耐える。

「こ、の、馬鹿者がっ!!お前は一体何をしている!?」

そしてこの一撃をお見舞いしたのは、綺麗な黒髪に紫色の水晶のような瞳、手に持つ銀の装飾剣が特徴的な見た目美しい少女のような美少年。
その少年、リオン=マグナスは目の前の少女、クノンに対して酷く憤慨していた。

『あ、あははは…これはなんとも…驚きましたね、坊っちゃん』

と、そこに姿なき第三者の声が響いた。
否、実際には人の形をとっていないだけの人物がそこに居る。
それは黒髪の少年が持つ装飾剣、"ソーディアン・シャルティエ"に投射された人格、ピエール=ド=シャルティエのものだ。

「驚いた、で済む規模か、これが」

はぁと溜め息を吐いて第二撃目を与えようと振り上げていた腕を力なくその場に降ろす。

…さて事はこの落雷の数十分前にまで遡る。

最初にクノンの術を指導し始めたあの日から数ヶ月が経過し、彼女の使う巫術も晶術で言えば下級〜中級程度のものにまでなっていた。
そして今日も実践練習として剣聖杯でも使用されたコロシアムを借りて(術の練習に自宅庭を使うと、ものによっては悲惨な事になる為) 行っていたのだが。

「新しく広域殲滅用の術式が組めたから、試してみてもいい?」

という、妙に瞳をきらきらさせたクノンに一抹の不安を抱きながらも、術の行使にも慣れてきたようだし大丈夫だろうと安易に的を用意してやったのが全ての間違いだった。


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あきゅろす。
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