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月へ唄う運命の唄
教えてリオン先生7

…むぅ。考えても仕方ない、かぁ。お願いしたのはボクだし、何よりいつまでもこのままじゃいられない。…それにまたこれ以上いや〜なあだ名とかついたら嫌だし。"貧血剣士"とか呼ばれたらさすがに泣くよ?貧血で倒れてるわけじゃないけど。

「さぁて、鬼教官のところにいきますか」

準備を整え、自室からリオンの待つ庭へと向かう。階下へと階段を降り廊下ですれ違う使用人達と軽く挨拶を交わしあう。長い廊下を抜ければ、開けたロビーに出る。…ここでも使用人達が数人、早朝からの仕事に取り組む姿がある。もう見慣れた光景だが、彼女らは一体いつ起きているのだろうか、又は休んでいるのだろうかと常々思う。
以前マリアンに訊ねた時には「クノンちゃんよりちょっとだけ早く起きて、ちょっとだけ遅く眠るのよ」と軽く微笑みながらもそれだけしか教えて貰えなかった。
クノンも朝の鍛練に始まり、夜は仕事の後に巫術や一般教養の自習をしている関係でそれなりに1日が長いのだが、それよりもとなるとちょっと心配になる。…だが、体調管理も仕事の内と、しっかりと規則正しい生活を習慣づけているのだろうからそれは杞憂であろう。
―ともあれ、今は急がなくてはと早々にロビーを通り抜け、庭へと到着した。

「…遅い!何をしていた」

「あははー…いやね、変な汗かかされたからちょっとシャワーに…」

「よしでは早速軽い準備運動の後、筋力トレーニング、素振り、手合わせ、さらに術の講義に実践と続けてやるぞ」

「…入った意味はないと仰りたいんですね…」

がっくり。まずは体作りしないとって事ね。でもちゃんと先生してくれる気があるみたいで良かった。

…なにはともあれ、リオン考案のメニューを黙々とこなしてゆくことにする。
が、無論、いつもよりかなり早いとはいえ起床から朝食までの僅かな時間の間に全てをこなす時間はない。
その為早朝は剣の手合わせまでとして、朝食後から夕方頃までは客員剣士の業務、夕食から眠るまでの時間に術の講義を行う事になった。
そして一日目の夕食後。

「…さて来たな。それでは始めるぞ」

扉を叩いて部屋に招き入れられると、既にある程度の準備は整えてあったのか小型の机の上に参考書と思われる書物やメモを取る為の筆記具などが用意され、机を挟んで向かい合う形で椅子が二脚部屋の中央付近に配置されていた。

「…なんか、すっごいやる気に溢れてない?お願いしておいてアレだけど」

「なんだ、頭にではなく物理的に叩き込んでやった方がわかりやすかったのか?」

「すみませんこのまま講義宜しくお願いします」

慌ててぺこりと頭を下げて手前側に着席すると、彼もフンと鼻を鳴らして向かいの椅子に座る。

「では始める前に言っておく。僕が教えるのはソーディアンマスター向けの基礎概論だ。が、お前が使う事になるだろう巫術とやらとは、起こる現象は同じであろうともそれを構築する過程は恐らく全くの別物だろう。…だから僕が使う方式をお前自身がどう置き換えていくかにかかっている事を忘れるな」

「うん」

よし、と頷いた彼による講義は実にわかりやすく丁寧なものだった。
理解出来なければ容赦なく置いていくような徒競走ではなく、こちらがしっかりと把握しているかを逐一確認しながらの、歩みを合わせての二人三脚だ。

仕事を教えて貰う時も思ったけど、やはり彼は、本来は気配りの出来る優しい人なのかも知れないな。


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あきゅろす。
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