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月へ唄う運命の唄
教えてリオン先生6

翌朝。

布団の柔らかさに気持ちよく眠っていると、なんだか不自然な体の揺れを感じて意識が急速に持ち上げられていく。

―ゆさゆさ。

「…んぅ…」

―ゆさゆさ。

「…む…ぅん……」

―…。

カチャリ。

…かちゃ?

『…ちゃん!?…、ま……か!?』

シャルの声?…なぁに?朝からうるさいなぁ…
って、ちょっと待って。"シャルの声"?てか、なんか嫌な気配が。

何やら不穏な空気を察して重い瞼を持ち上げると、眼前にはおよそ信じがたい光景が広がっていた。

「…ってぇ、ちょっ!?待っ!?」

ばしん、と反射的に降り下ろされた銀の剣の腹を両手で挟み鼻先数センチの位置でその進行を止める。
・・・・
「おはよう、漸く目が覚めたか。咄嗟に白刃取りをされるとは惜し………もとい、中々の反射だな」

「…あのさ、いくら普段男装してるとはいえ仮にも女の子の部屋に不法侵入した挙げ句、寝起きに真っ二つ寸前まで追い込んでおきながら第一声がそれってどうなのよ…?」

おかげさまでばっちり目は覚めたけど、背中が冷や汗でびっしょりなんですが。

「優しく揺すってやっているうちに起きないお前が悪い。僕に指導を頼んだのはお前だ、厳しくいかせて貰う」

さらっと文句をスルーしといてぷいと顔を背けましたよこのお方は。

「勘弁して…ほんとに…」

あーあもう、鍛練の前から嫌な汗かいたせいで気持ち悪い。…ていうかボクにこんな事するキャラだったっけ?

げんなりしつつも、ふとした違和感に首を捻る。が、とりあえず今は他に重大な問題があった。

「で、リオン」

「なんだ」

「さっきも言ったけど、ここはボクの部屋なわけで」

「それが何だ」

「女の子としては朝の準備に男の子が居ると非常に気まずいというか……もう………〜〜っ!着替えられないし恥ずかしいから早く出てって!!」

自分で言っててだんだん意識してきちゃったせいか、なんだかもの凄く顔が熱い。なんのいじめなのコレ!?

クノン自身、加速度的にテンパっていくのが自覚出来る。

なんかもうこっちは耐えられそうにないっていうのになんでリオンは「そうか、では庭で待っている」とか涼しい顔してしれっと言うかな!?

「バカ!」

ぼすっ!といつかのように彼の姿が消えた扉に向けて枕を投げつけ、荒い息をつく。

「まったく…いきなりなんなのさ……」

彼の姿が見えなくなり、落ち着いてきたところでまずは冷たい水で顔を洗い、熱を冷ますことにする。ついでに軽くシャワーを浴びて汗を流してしまおう。

―…きゅ、とノブを回してシャワーを止める。汗も流してさっぱりしたし、顔の熱もだいぶ引いてきた。あとは着替えてリオンの待つ庭へ向かうだけなのだが…。

…そういえば、彼の方から"おはよう"って言われるの初めてな気がする。寝起きにいきなり襲撃されたせいと、恥ずかしくなってテンパっちゃったせいで完全にスルーしちゃったけど。

シャワー室を出て髪を乾かしながら、不意の変化を思い出す。これまでならこちらから挨拶しての返事、という形か、悪ければその返事すらこない時もあったというのに。

何か心境の変化でもあったのかな…というか、予想外に張り切ってない?
…え、まさか指導にかこつけて今までかけた迷惑の分、仕返しにいじめられるって事?…あわわ…考えるだけで恐ろしいんだけど!

一晩での急激な変化に戸惑うあまり、マイナスな予想ばかりが思い浮かんでしまう。


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