月へ唄う運命の唄
次元渡航1
…はっ、はぁっはっ、…
――走っている。
…はっ、はぁっはっ、んはっ…
――走っている。息が切れるくらい。
…はぁ、んぁ、はっ、はぁ、…
――ただひたすらに。
週末、私達家族は羽根を伸ばそう、とちょっとした山のキャンプ場に訪れていた。
お父さんとお母さん、それに私。いつもの剣のお稽古やお勉強など、厳しい日常を忘れてただただ、楽しい時間を過ごしていた。
お父さんが埃まみれになりながら、家の倉庫から取り出してきたセットを使ったバーベキューは美味しかったし、お母さんが夜の楽しみにと、買ってきてくれていた花火だって、綺麗で見とれるくらいで。
一泊二日。名残惜しいながらも、キャンプ場をお父さんの運転する車で出発して数十分。突然、"ガタン"と車が何かにぶつかったような不可解な衝撃音とともに停止した。
何?
衝撃と痛みに耐えた私は目を恐る恐る開ける。…そして、その視界に飛び込んできたものは。
――車内一面の赤だった。
ゾッとするほどの寒気と、"居る"感覚。塗りつぶされた色と充満する慣れない臭い。たまたま胸に抱いていた、誕生日に貰った宝物がカタカタ音をたてている。
それは私自身の震えだとわかるのに時間はかからなかった。とにかく逃げなくちゃ、恐怖でパニックになりながらドアを開けて、車から飛び出して――……
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