月へ唄う運命の唄
教えてリオン先生2
「…ふぅっ」
これで漸く一息つけると、クノンは処理していた書類を机の脇に寄せ、んっ、と背伸びをする。
初の実践デビューから半年が過ぎた。あれから徐々にではあるが討伐系の任務も増えて、客員剣士らしい仕事にも慣れてきた。
そうとはいっても補佐は補佐。単独で出る事はなく専らリオンと1セット。…それには別に問題はないし、やはり先輩としての彼は凄く頼りになる…のだが。
気になる。
物凄く、気になる。
一体何が気になるのか。
…そう、それは彼が戦闘時に時折使う魔法のような不思議な技。…晶術、というもの。自分が使う巫術でも熟練者ならば似たような事が出来る…らしいのは知っている。陰陽五行に因んだ、西洋風に言えば魔術・魔法のようなもの。
しかし、自分にはそれを教えてくれる師がいない。そこで、彼が晶術を使う際のコツのようなものでも教わりたいという思いが日々強くなってきていた。
それとはまた別に、この何回かの任務で相手にしていたモンスターの件でも話しておきたい事もある。
思い立ったが吉日、クノンは椅子から立ち上がると、自分と同じように事務処理に追われているであろうリオンの元へと向かう事にした。
―コンコン、と扉をノックしてやれば、年若い青年の声が返ってくる。部屋の主とは別人のものなのだが、彼が返事をする事自体が稀であるし、青年がどうぞというのであれば問題はないのだろう、と扉を開けて中へと足を踏み入れる。
部屋の中では、自分より一つ歳上の少年がベッドに腰を掛けて読書の真っ最中であった。
「や。お邪魔するね」
「…邪魔をするなら部屋に戻れ」
「そんな意地悪言わないでよ。ちょっとお話しよ」
本気で言っているわけではない、というのは顔を見れば一目瞭然。何の用だ、という意味と捉えて問題はないので、用件を伝えて空いていた椅子に座る。
何度か来たことはあるが、部屋の中は相変わらずシンプルなもので、必要最低限の家具以外余計な調度品や装飾などは一切ない。書類や資料などを納める為の本棚がある分、それらを置くスペースがないのも理由だろうが、大半は彼の性格が故にだろう。
クノンがキョロキョロと部屋を見回していると、本を閉じる軽い音が耳に飛び込んできた。
「…それで、話というのは何だ。僕はお前と違って忙しいんだ」
「あぁ、ごめん。そうそう、リオンってさ。モンスターとかと戦ってる時にたまに魔法みたいなの使うでしょ。あれ、どうやるの?」
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