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月へ唄う運命の唄
木陰3

なにはともあれ。

こうして此処に来てしまった以上、少しずつでも慣れていくより他はない。寝間着から着替え(やはり男物)、これまでもそうしてきたように早朝の鍛練に向かうべく、"羽姫(ハノヒメ)"と名付けた刀を手に庭へ出ようと部屋の扉を開け――…

ばったり。隣の部屋から出てきた、これから上司になる少年と出会した。

見れば彼もまた、自分と同じく早朝の鍛練を日課としているのか。銀色の剣を腰に提げ、外へと向かうような素振りを見せていた。

「…………」

「お、おはよ……?」

挨拶をしてみたものの、じろり、とこちらに一瞥をくれ、そのまま無言で廊下を歩いて行ってしまう。
寝起きが悪いタイプなのかな?と首を傾げつつも同じようにクノンも庭へ出る。先に来ていた彼は少し離れた位置で素振りを始めていた。
クノンもまた、少々の準備運動をし体を解してから一通り型をなぞり、それから素振りを開始。暫く時間をかけて自ら課したノルマを達成し、小休止に入る。ふと気になって視線を向けると、向こう側から何故かやたらと厳しい目付きでこちらを見ていたリオンの視線とぶつかった。

「…………」

「…………」

気、気まずい……

そのまま十数秒ほど視線を交わしていたが、その間もひたすら無言。なんだかいたたまれなくなってきていたクノンは、耐えきれず声をかけてみることにした。

「あ、あの……何か用?」

ぎこちない笑みを作って、出来るだけ柔らかく言ってみる。ちょっと声がうわずっていたような気がするが気のせいだ。

それが向こうとしてもきっかけになったのか、つかつかと無言で距離を詰めてきたリオンが、突然銀色の刃、その切っ先をクノンの鼻先に突き付けた。

「うわっ!?」

『……お、おはようございます。聞こえますか?』

「……え?」

聴覚を介さず頭に直接響く、先日も何度か聞いた若い男性の声。それは俄には信じがたい事に、鼻先に突き付けられている剣から発せられたものだと直感した。

「ま、まさか……剣が喋ってるの?」

『……だ、そうですよ、坊っちゃん』

それを聞いたリオンは、はぁ、とため息を吐き剣を下ろすと、庭の木の幹を背に座り込んでいるクノンの正面に腰を下ろした。
座り込んだ二人の間に剣を置いたリオンは、じ、っとクノンの顔を数秒見つめた後、あからさまに面倒そうな表情のまま口を開く。

「さて、面倒だが仕方ない。まずは先日、詳しい事は後で話してやると言った事を覚えているか」

こくりと頷いたクノンにリオンは続ける。

「先程お前に話しかけた剣……こいつの名はシャルティエという。千年前に造られた決戦兵器・6本のソーディアンの内の1本だ。この鍔の所……此処に埋め込まれているコアクリスタルに、元の持ち主であったソーディアンマスターの人格が投射されている。その為に剣自体に人格が宿り、意志疎通が可能となっている。……そして、ごく少数の限られた適格者にのみ、その声を聞き取る事が出来、また正しくその性能を引き出す事が出来るんだ」

『改めてまして、ピエール=ド=シャルティエと申します。……シャルって気軽に呼んで下さい』

見ればコアクリスタルとリオンが指差した部分が淡く明滅し、それに合わせるように彼の声が頭に響いた。若く気さくな青年、といった印象の優しげな声にクノンもよろしくね、と返す。


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