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月へ唄う運命の唄
剣聖杯(後編)6

早く、早く!早くリオンに知らせなきゃ!!

気ばかりが逸り焦ってしまう。はぐれてしまったリオンを探し始めて10分強、出会す侵入者達を片っ端から叩き、殴り、薙ぎ払い続けつつも襲われている人々を守る。さらにその中でリオンも探す。体力ばかりでなく、精神的な消耗も著しい。
いくら常人離れした剣を振るえても、あくまで11歳であるクノンの限界は近かった。
そんな中でも助けられた者達は、自らを救った剣士が年端もいかぬ子供である事に驚きつつも、皆同様に感謝を述べコロシアムを脱出してゆく。
……そしていよいよ気力が体力とともに尽きかけていたその時、その光景はクノンの眼に飛び込んで来た。
それは前方8メートル程だろうか。敵を斬り倒したリオンの背後から戦斧を手にその腕を振り上げ、今にも彼目掛けて降り下ろそうと機会を窺う筋肉質の男の姿。

「リオン!!危ない!!」

思わず声に出してしまった事が悔やまれた。声に出さず、セオリー通り気配を殺して最速で行けば、機会を窺っている隙に倒せたかも知れない。走っては間に合わない、縮地法でも届かない、気付けば咄嗟に男目掛けて木刀を矢の様に投げていた。

「ちィ!邪魔しやがって!!」

だがしかし、クノンの投げた木刀は激しい音を立て戦斧により叩き落とされ、砕かれてしまった。

「この餓鬼がぁ!てめェから死ね!!」

男は矛先をこちらに変え、そのまま戦斧を手に走り出す。こちらが手にしていた得物は相手によって砕かれてしまい、手持ちは無い。
慌てて周囲を見回してみても、不運な事に使えそうな武器は落ちたりしてはいなかった。攻撃を避けるにしても、此処に来るまでに既に体力は底をついている。
このままでは無抵抗のまま殺されてしまうに違いない。明らかな失策。
……そう考え至った時、眼前に迫る敵が、人の形を模した死の恐怖としてクノンの目に映った。

……嫌、死にたくない、こんな、こんな所で。

最初は腕。次に脚、背中、頭。逃れ得ぬ恐怖は、クノンの身体を絡めとり、縛り、身動き一つ出来なくする。辛うじて動く唇からは、酷くか弱い、細い声が漏れ出るのみ。

「…い……ぃゃ…ゃだ…」

そうして固まっているクノンの目の前には、いつしか敵が立ちニヤリと気味の悪い笑みを浮かべ、その手に握られた死を与える戦斧が、柔らかな女子の肉を断つべく振り上げられ――

――撒き散らされる、真紅。


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あきゅろす。
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