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月へ唄う運命の唄
剣聖杯(後編)5

キャアアアァァァ!?

ウワァァァァァア!!

コロシアム中に響き渡る沢山の悲鳴。さらにその悲鳴に覆い被さるようにして、小規模の爆音が轟く。観客出入口から侵入したと見える、盗賊を思わせる風貌の武器を手にした男達が走り回る姿がクノンの目に飛び込んできた。

……え、なに?何なの?

「?なんだこれは!?」

どうやら先程の巨大な爆発音で正気に戻ったらしい、リオンも突然の事態に目を見開いて戸惑っている。

『坊っちゃん!!何が起きているかは取り敢えず後回しにして、襲われている人達を助けに行きましょう!』

「ひゃわっ!?」

突然頭に響いた若い男性の声に驚いて、思わず飛び上がるクノン。慌てて周りを見回しても、グラウンドにはリオンと自分の姿しか見えない。……いつの間にか審判の兵士が居ない。侵入者の排除にでも向かったのだろうか?

"普通ならば"決して聞こえる事のない彼の声がした瞬間、飛び上がりキョロキョロし始めるクノンを見たリオンは驚いた様子でクノンの方へと振り向いた。そして間髪入れず「まさか今の声が聞こえたのか」と厳しい口調で訊ねる。それにコクリ、と目を丸くしたままでクノンが頷くのを見ると、リオンはさらに驚き……やがて小さくため息を吐いた。

「え、ちょ、なんでため息!?」

「五月蝿い。面倒事が増えた、と思っただけだ。…取り敢えず説明は後でしてやる。着いてこい、観客席で暴れている馬鹿どもを叩くのに戦力が要る。手伝え」

くい、と顎で観客席を示すと、リオンは木剣を捨て背に仕舞っていた銀に輝くソーディアン・シャルティエと腰からダガーを抜いた。

「遅れるなよ」

そう一言残すと、リオンは観客席へ上がるべくグラウンド出口へと走り出してしまう。

「ちょ、勝手に決め…〜〜っ!んもぉー!!置いてくなー!!」

訳も分からないまま、勝手に決めて走り去ってしまったリオンを追いかけながら、クノンは後で絶対いぢめてやる、と心に誓うのであった。


――観客席に辿り着くと、そこには阿鼻叫喚の図が広がっていた。逃げ惑う大人達、追いかける侵入者達の下卑た笑い声や怒声、そしてそれらにかき消されるような子供達の悲鳴……爆発の際に用いられたのだろう火薬の臭いに紛れ、血の臭いまでもが漂っている。
慣れない、というよりは初めて足を踏み入れた世界に、一瞬立っていられない程の目眩を覚え、身体が震え、恐怖に負けそうになるのを感じた。

――いけない、止まっては駄目。………私は、…ボクの名は"クノン"、一人の、剣士!

ダン!とまとわり付こうとする恐怖を踏みつけるようにして地面を強く蹴り、5メートル程前で今にも捕まえた男性を斬り殺そうとしていた男の懐に飛び込むと、男が何が起きたか認識するよりも速くその顔面に木刀を叩き込み殴り飛ばした。
衝撃で宙を飛びベンチに身体を叩きつけた男はピクリとも動かない。
それを確認したクノンは、次に子供を縄で縛り上げている者を見つけると、直ぐ様詰め寄りその横腹に木刀をめり込ませ失神させる。

…まさか狙いは、子供!?

嫌な予感がした。


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