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月へ唄う運命の唄
剣聖杯(後編)4

――…その瞬間、クノンは自分の周囲の空気が変わるのを感じた。
それだけではない。地式ノ二"幻閃"の直撃を受けて転がったリオンの周りの空気もまた、それ以上に変わっていた。
ゆらり、体を起こし立ち上がったリオンの瞳には、それまでクノンが見た事のない暗い光が鈍く灯っている。
背筋に、冷たいものが伝う。喉が、いやに渇く。それまでも真剣ではあった、がやはり試合として楽しみつつ戦っていたのだが、これから先はどうやらそれは許されないらしい事を直感で悟る。

……リオンが構えた。

来る!!…………っ!?

まるでそこに獲物がいるかの様に、その場で一閃、リオンが剣を振るった。クノンは嫌な予感に突き飛ばされるようにして咄嗟に横へ飛ぶ。空気の切り裂かれる音を耳が捉えた直後、背後の壁で盛大な衝撃音が響いた。
それに驚いて思わず後ろを振り返れば、まるで何か鋭い刃物で切り裂いたかのような巨大な爪跡が一筋、丈夫な筈の石壁に食い込んでいた。

……衝撃波!?嘘でしょ!?

あんなモノをまともに受けたら洒落にならない、というクノンの余計な思考の隙間に滑り込むように、冷たい声が耳から入り込んできた。

「虎牙破斬…」

「っ!!」

見とれている僅かな間に懐に飛び込まれていたクノンに、猛獣の牙が襲いかかる。下段斬り上げ、振り上げた姿勢から体重を乗せた上段斬り…猛虎の命を刈り取る牙の如く、襲いかかる剣撃に辛うじて受けた木刀を持つ手が痺れる。

それを感じ取ったのか、今度は畳み掛けるような双剣の斬撃が繰り出される。小さく、「双連撃」とリオンが呟いていた気がする。

「ク…ふ!…ンッ!」

速っ……!?それに力が上手く…ひゃあ!?

ガン!と音を立て木刀が弾かれ、肩に痛みが走る。クノンは慌てて木刀が飛ばされた方へ跳び、リオンの猛襲からなんとか逃れた。
肩に響く鈍い痛み。幸いにして、利き腕がやられたわけではない為、まだ戦える。…だが、クノンの脳裏に過るあのイメージがリオンに重なり、反撃の手を出すことが躊躇われる。

…あの夢の子…そっか…

木刀を拾い構えを取るクノンを確認したリオンは、再び凄まじい速度で尚も斬りかかって来る。それをなんとか逸らし、受け止め、弾く事で攻撃に耐えるも、哀しげな…それでいてどこか怯える様な瞳に、必死な迄の連撃。クノンは捌き切れずに少しずつダメージが蓄積してきている。

……ねぇ、どうして?

その中でクノンは夢の中でそう投げかけた様に。

どうして、あなたは…


――その時、巨大な爆発音と共にコロシアムは激しく揺れた。


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