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月へ唄う運命の唄
剣聖杯(後編)3

「――…ハァッ!」

先手必勝。タイミングは取らせん。

リオンはクノンのカウンターを警戒しつつ左下から右上へ剣を振るう。…が、つい一瞬前までそこに居た筈の相手の姿が見えない。勿論、剣は何もない空間を切り裂き何の手応えもない。
リオンがそれを自覚した瞬間、嫌な予感が脳裏を過る。視界がいやに暗い……否、自分の立つ空間だけが何故か影が濃い。
危険を感じ咄嗟に横へと転がるようにして飛び退けば、ザク、と何かが地面に突き刺さるような音が聞こえた。
クノンはリオンの頭上に跳んでいたのだ。
そしてリオンが体勢を整えるよりも速く、クノンは地を這うように姿勢を低くしたまま、木刀をまるで鞘に納めるような動きをしつつ詰め寄ると、反動を利用した一閃を放つ。移動型の半抜刀術である。

「チィッ!!」

これをリオンは剣の軌道を遮るように右寄りに短剣と長剣を交差させ、強固な防壁を成して辛うじて防ぐ。…が、その瞬間脇腹に鈍器で殴られたような衝撃が突き刺さり、リオンは数メートルほど地面を転がされた。

「ぐフっ……!?」

防いだ筈の剣が何故か脇腹へ直撃している。何が起きたのかが理解出来ない。完全に軌道を遮った筈である。

……確かにクノンの剣が進む軌道上にリオンの防御があった。このままの勢いで"柄を握りこんだまま"進めば、その進行は分厚い壁に阻まれ止まっていただろう。
だが、そこでクノンはリオンの防御と接触する刹那、二人の剣の角度に合わせて握りこむ力を僅かに弛ませつつ手首を内側へ畳んだ。ちょうど平行に沿い、防御の壁を鞘の延長としてレールにし、刀を走らせた。
そして防御を抜けるところで再びしっかりと握り込み、手首の角度を戻す。必然、その先にある障害物――リオンの胴体へ到達と同時にその進行は阻まれ、衝撃を打ち付けたのだ。
常人では成し得ないミリ単位以上の作業を、クノンは恐るべき集中力で成し遂げたのである。

……奴は何をした!?何故僕はダメージを受けている!?

無論、やられた方は何が起こったのか理解出来る筈がない。リオンは混乱の最中に居た。

……馬鹿な…このままでは、負ける…!…負ける?僕が?そうしたらどうなる?僕が負け、奴が勝つ。奴はヒューゴ様の差し金、つまりは新たな手駒。ヒューゴ様に弱者は必要ない。弱い駒は捨てられる。………捨てられる……つまり、僕が、捨てられる…?

リオンの瞳に、焦りと恐怖の色が滲み始める。
暗く、濃い絶望感にも似たそれは、あっさりとリオンの心を侵食し尽くしていく。

違う!僕は弱者ではない!こんな所で、捨てられるわけにはいかない…!!


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