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月へ唄う運命の唄
剣聖杯(後編)2

――リオンの第一試合が始まってから数時間。午前中の早い時間から始まった剣聖杯は、日が落ち始める夕刻になっていよいよクライマックスを迎えようとしていた。
コロシアム周辺の模擬店に群がっていた者達も、この試合だけは決して見逃すまいと観覧席に詰めかけ、溢れんばかりの人々の視線はコロシアム内の中央グラウンド・その闘いの舞台へと注がれている。
その舞台に立つのは、まだ少々あどけなさが残るも、凛とした表情の整った顔立ち、黒い髪に美しくも鋭い視線を放つ、紫色に輝く瞳の二刀流天才少年剣士。
彼に対峙するは、彼とはまた違う意味で綺麗に整った顔立ちに、澄んだブラウンに輝く大きな瞳と同色のポニーテールに結われた長い髪……何よりも特注品であろう異様に長い木刀が目を惹く、少女のような少年剣士。
今大会最上級の実力者同士による、剣聖杯決勝戦の闘いの火蓋は、今まさに切って落とされようとしていた。

相手に突き刺すような鋭い視線を送りつつ、対峙する相手に口を開いたのはリオン=マグナス。

「…お前、一体何者だ?」

初対面の相手に対し、唐突にそう切り出したリオンの言葉に、目を丸くした後、少々怒ったような表情を作るクノン。

「君さ、いきなり失礼。仮にも初対面の人に何者だ?はないでしょ。まずは挨拶だよ?……あ、この度相手をさせていただきますクノンと申します。宜しく」

数秒前まで不機嫌な表情を見せていた癖に、突然爽やかな笑顔を浮かべ、さらに脈絡なく挨拶をしたクノンに少々毒気を抜かれるリオン。

……なんだコイツ。

「……何者だ、と訊いたのだが。大体、初めて見る顔だ。少し見させて貰ったが、お前程の実力とそのバカ長い武器なら、噂くらい聞くはずだが僕は知らないし、出場者の中にも知る者は居なかった」

「はぁ……挨拶出来ない人って嫌われるよ?……ボクが何者か、なんて、多分君がボクの予想通りの人なら試合の後にでもすぐわかるよ」

……まぁ、名前は対戦表で確認したし、色々マリアンに聞いたから知ってるんだけど。

挨拶を見事にスルーされたクノンと名乗る見た目少年は、少々呆れた顔をしつつ意味深な台詞を口にする。

「お前、僕を舐めているのか」

クノンの言葉を"すぐに終わらせてあげる"という類いの挑発とでも受け取ったのか、リオンはあからさまに怒気を含んだ視線と言葉を放つ。

なんでそう取るかな?

「違う違う、君、ヒューゴ様、って人に心当たりない?」

「ヒューゴ様……だと…!?」

ピクリ、僅かに片眉が反応したかと思えば、みるみる内に目がつり上がり、怒りの為か肩が震え出すリオン。

「…お前、ヒューゴ様の差し金か。僕と戦わせてどちらが使えるか試すつもりなのか?…いや…まぁいい。あの方が何を考えているのかはこの際関係無い。僕の前に立ち塞がるなら、蹴散らすまでだ」

素早く二刀を構えたリオンに、ただならぬ気配を感じたクノン。少々困惑しつつも木刀を構え、"剣士"に変わる祝詞を紡ぐ。

「……紫桜流、クノン、参ります」

両者の構えを確認した兵士は、少年達のものとは到底信じられぬ恐怖を感じる程の気当たりに冷や汗を浮かべつつ、試合開始の合図を送った。

「……それでは剣聖杯決勝戦、リオン=マグナス対クノン、始め!!」


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あきゅろす。
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