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月へ唄う運命の唄
剣聖杯(前編)9

「……ふぅ……」

ここまで三回戦。さすがに少し疲れてきた。

クノンは控え室に置いた荷物袋に手を入れると、マリアンが持たせてくれた中からタオルを取り出して顔を埋める。
試合は楽しくもあり、また少しだけ物足りなくもあった。参加資格対象者の年齢層を考えれば仕方ないのだが、予想していたより少し拍子抜けしてしまう。
先程戦った二刀流の少年は自分より三つばかり年上らしいのだが、それでも中盤からは半ば相手に修行をつけているような不思議な感覚であった。

「……ちょっと遊び過ぎたかも」

最後の方、なんかヤケクソになってたっぽいし。

意図せず少年の半泣きになっていた顔を思い出してしまい、誰に向けるでもなく一人苦笑が浮かんでしまう。
……だがそれでも。三回戦の直前に見た黒い髪の少年。彼だけは明らかに別格だった。
自分が対戦した二刀の少年とは、スタイルは近くともその強さは比較にならない。
あれが、家を出る前にマリアンがこっそり教えてくれた"彼"なのだろうか。近くで見たわけではないし、聞いた特徴と見ていた彼を照合するよりもその卓越した剣技に目が行ってしまった為確証はない。
いずれにしても、彼を近くで見てみたい。手合わせしてみたい……そんな気持ちでいっぱいであった。
……またそれとは別に。クノンは改めて自分の服装に目をやり、思わず深い溜め息をついた。

――ここまでクノンが女であるとは誰にもバレてはいない。体型がわかりにくい服装と話し方だけでここまで上手くいくものとは思ってはいなかったのだ。
演技練習の賜物なのか、それともまだいろいろと幼いからなのか。……少々複雑ではあるのだが、契約もある為バレないに越したことはない。
今はこれでよし、と少々強引に今後に期待することにした(現実から目を背けた)クノンは、汗を拭ったタオルを仕舞うと、次の試合までに疲れを取るため、少しだけ眠ることにした。

――数十分後、次の試合時間までに起きられずに少しだけ遅刻したのは秘密の話である。

2011/09/01
2015/04/20加筆修正
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あきゅろす。
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