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月へ唄う運命の唄
剣聖杯(前編)8

薄暗い通路を抜け、ほぼ満席状態の観覧席階へ出ると、そのまま最下部…最前列に出る。
すると、そこから見えたのは随分と長大な木剣らしきものを振るう、白い服の少女のような顔立ちをした長髪の少年と、比較的オーソドックスな木剣二刀の少年が対峙している場面だった。
二刀の少年の方は見覚えがある。確か昨年準決勝で戦った相手だ。自分と似た戦闘スタイル同士の対決、加えて唯一そこそこ勝負になった少年だが、力任せに振り回すだけで練度はさして高くもなかった為、苦戦するという事もなく下している。
…とはいえ、それなりの腕を持っている事は確かなので、リオンの予想としては大方こちらが押しているだろうというものだった。

なのだが。

その予想は大きく外れた。

二刀の少年が大きく踏み込み一刀で渾身の突きを繰り出しつつ、もう一刀で自分の死角になる部分を守る。
……なるほど、多少は成長しているようだが、対峙している白い少年の方が上手であった。
突きだした剣に自身の剣を添えて軌道を逸らし、触れた剣の威力でも利用したのか信じられない速度で身体を回転させ、守る腕の逆側…つまり突き腕に横凪ぎの一閃を浴びせ片腕を潰した。
真剣なら突き腕は綺麗に上下にスライスされてる所だが、今回は打撲程度だろう。
慌てた二刀の少年が無事な方の腕を振るい斬撃を繰り出すも、それらを踊るようなステップで難なく回避し続け、疲労が見えた所でコン、と脳天に一撃を入れて昏倒させる。

……それで試合は終了。

終始、白い少年に弄ばれる形で二刀の少年は敗北した。

……レベルが違う。

恐らくは勝利した少年の方は汗ひとつもかいていないだろう。そこまで観てから、リオンはくるりと踵を返すと控え室へと戻るべく歩き出した。
見た感じでは身長は自分の方がある。…だが、相手の得物は自分よりも長い上、その身体とほぼ同等であろう武器をもて余す事なく最小限の動きで的確に振るってくる。
今の試合を見る限りはタイプとしては威力重視のパワー型ではなく後の先を取るカウンター型。

……ということはやはり持ち前の速さを活かしてタイミングを取らせず攻めるのが得策か…?

と、いつの間にか自分と当たる事を前提に戦術を練っている事に気付いたリオンは、自然と沸き上がった感情に苦笑を漏らした。

……この僕が、試合を楽しみにしているというのか。

だが、悪い気はしない。何故なら、心の奥底では望みながらも諦めていた対等以上の勝負を出来るであろう相手が、漸く現れたのだから。


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