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月へ唄う運命の唄
剣聖杯(前編)6

――それから十日程して。
ある男が無言で歩き回っていたかつて無人のコロシアムには、溢れかえるような人々の熱気と活気に満ちていた。
市街から城門を抜け、そこから延びる道に続くコロシアムの出入口付近には、その道に沿うようにして数々の露店が設営されている。
そこでは調理された食品やら手作り感溢れる工芸品などが売られ、さらに簡単な遊戯の催しなどのある模擬店が開かれていた。まさにお祭りである。
そんなものには興味無し。むしろ騒がしく煩わしいとさえ感じる、少々年齢の割には大分冷めた少年剣士。
彼はすし詰め状態にも関わらず流れていく人々を器用に避けつつ、淡々とコロシアムの内部へと続く出場者用のゲートを目指し突き進んでいた。
その腰には豪奢な拵えの銀に輝く剣を提げている。

『うわぁー、お祭りですよお祭り!楽しそうですよ坊っちゃん!』

聴覚を通さずに直接脳内へと流れてきた意識…若い男性の言葉に驚くことはなく、ただでさえ不機嫌気味に表情を固めていた少年の眉間には皺が寄るだけだ。

「だからどうした。僕には関係無い」

まるで独り言のように小さく呟き、また腰に提げた剣の鍔に埋め込まれた水晶に軽く手を当てながら聞こえてきた言葉に返事をする。
傍目にはまるきりの独り言であるが、周りには聴こえないような小声であり、また道行く人々の喧騒にかき消されてしまう程度。
だが彼のその呟き程度の音量でも聞き漏らす事もなく、腰に提げられた剣…ソーディアンからはしっかりと返事が届いた。

『少しくらい浮かれてもいいじゃないですか。ホラ、坊っちゃんも少しは楽しんではどうです?…あぁ、あそこの的当てなんか面白そうですよ』

「僕を子供扱いするな」

『子供扱いなんかしてませんよ?…苛々しているなら、まずはあそこの綿あめでも食べてれるげべ!?』

少年は"つい"ベルトに留めてあった金具を外してしまうと、"うっかり"鞘ごと提げられていたお喋りなソーディアンを地面に落としてしまう。
…その際、鍔に埋め込まれた水晶――コアクリスタルと呼ばれるレンズ――を地面に当たるようしっかり角度を計算しながら。

「…すまない、シャル。どうも留め金が緩んでしまっていたよう、だ!」

さらにガツン!!とトドメの一撃と言わんばかりの勢いでおもいっきり"誤って"踏んづけてしまった。

『ぅあだだだだだだ!?痛い、痛いです坊っちゃんごめんなさいすみません許してくださーい!?』

ぐりぐりぐりぐり。とレンズと地面の、見ているこちらが恥ずかしくなるような熱い熱いキスを手助けしてやると謝罪の言葉が飛んでくる。

「…………」

このまま捨ててしまっては不法投棄になってしまう為、仕方なく少年はシャルと呼ばれた剣・ソーディアンを拾い上げる。
地面に落とした際に付着したであろう土を払い、ベルトの留め金に改めてしっかりと固定すると、無駄にした時間を取り戻すように少々早足でゲートへと向かうのだった。


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