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月へ唄う運命の唄
ハイデルベルグの奪還10

緊張から解放されて一息ついた皆をよそに、グレバムの亡骸からイクティノスを取り上げたウッドロウさんが語りかけるも返事がない。
ディムロスやシャルが呼び掛けるが結果は同じ。

『話したくても話せない状態なんじゃ』

『恐らく当たりね。喉を押さえて困惑しているわ』

アトワイトの予測に、姿が視えるらしい姫が同意する。それはつまり、ソーディアンの破損を意味していた。姫に姿が視えている辺り、どうやら完全に"死んだ"わけではないらしい。しかし、意思の疎通が出来ず最低限の機能維持しか出来なくなっている以上マスターの契約が結べないために十全な力を発揮する事は不可能になってしまったのだ。

「せっかくグレバムの手から取り戻したのに…」

悔しそうに呟くスタンに皆が表情を暗くする。全員、同じ気持ちなのだ。修復は出来ないのかというエミリオの問いには、専用の設備が必要な上に現代には存在しないとシャルが答えた。
つまり、現状八方塞がり。取り戻せただけよしとしようとウッドロウさんは労るようにしてイクティノスを鞘に納めた。

「…神の、眼…」

術者が居ない今、それはあの禍々しい光を放ってはおらずにただそこに鎮座しているだけ。…なのだが、やはりその凄まじい存在感だけは健在だった。

「なぁ、これ、壊せないか?」

!?

スタンの発言に全員がぎょっとした顔をする。千年前に壊せなかったからこそ、封印するしか手がなかったと止めるソーディアンの面々をよそに、意外に乗り気になっているフィリアを始め悪用を恐れたルーティ(!!)、国家間の争いの火種になりうると警戒するウッドロウさん、勿論チェルシーも協力するという流れになっていくが…

「おい、まさか僕らの任務が何なのか忘れたわけじゃないだろうな」

とエミリオ。…確かに、これを"持ち帰る"のが任務である以上破壊など言語道断といえる。…だけど。

「ごめん、私もみんなに賛成。グレバムとの戦闘で破壊せざるを得なかった、とでも言う事にしよ?…コレは、危険過ぎるから」

「クノンお前まで……ちっ、やるならさっさとやるぞ」

渋々シャルを構える。…が、顔だけ見れば真剣そのものだ。
立場上任務を優先しなきゃならないけど、本心ではやっぱりみんなと同意見なんだね。じゃなきゃ無理矢理にでも反対するはずだもん。

そうして私達は残る力を振り絞り神の眼の破壊を試みた。

――が。

「はぁっ、はぁっ…なんて、硬さ…」

「ちぃっ…」

『だから無理だと言ったのだ』

神の眼は予想以上に硬く、ソーディアンをもってしても刃が通らない上に、晶術はそのエネルギーごと吸収される。私の巫術や布都御魂の刃は恐らく元の力が違うせいか吸収こそされないものの、異常に分厚い障壁に阻まれて届かなかった。

「私、もう駄目…ほんとに空っぽ」

ぱたり、と仰向けに倒れる。ただでさえ飛竜との戦いで限界だったところに、さらに少ない巫力を文字通り絞りきったのだ。しばらくは指一本動かせない。

「仕方ない、やはり持ち帰るより他はなさそうだな」

そう言ってエミリオは運び出す準備をしようとウッドロウさんを伴って飛行竜が停められているだろう城の裏手へと向かって行った。

『封印…ね…』

「?姫、何か考えがあるの?」

『ええ。残念ながら私自身は手を出せないけど、"とっておき"があるわ。それにグレバムがああもやたら世界を巡っていた理由も気になるし、あの男、ヒューゴに憑いたモノが何を企んでいるかもわからないからね』

「確かに…ね」

確かに、グレバムがただ私達から逃げ回るだけでいた、とは考えにくい。何故なら下手に移動すればそれだけ人目につくというリスクが増大していくし、どこか一つ所に隠れていた方が無難な筈なのだ。何か"世界を巡る事での利益"があったと考えてもいい。
こちらの世界にもあるかは不明だが、元の世界ではその土地その土地に封印された悪鬼や怨霊の類いが居たりするし、広範囲の土地にポイントを幾つか設ける事で巨大な"災厄"レベルのモノを防ぐ結界を構成している場所だってある。
仮にグレバムが世界を巡ってその封印を解除したりするのが目的だったのだとしたら、それは世界に多大な影響をもたらす事になる。
…が、神の眼がその鍵であると仮定するなら、現状まだ変化がないと思われるので間に合う筈。起動のエネルギー源がなければ封印されていたものも動きようがないだろう。
――そして、この旅の間にこれといってヒューゴからの妨害がなかった事も気になる。むしろ緊急船の手配や各オベロン支社の者に手を回したりと気味が悪いくらいに協力的だった。
…まさかとは思うけれど、今のこの状況こそが奴の計画通りなのだとしたら、やはりグレバムも私達も掌で転がされていた事になる。
…それはつまり、やはり神の眼が奴にとっても鍵という事。ここはなんとしてでもこれ以上神の眼に介入させないよう防御策を取る必要があった。

「姫のとっておき…ね。やっぱり、施術は私が?」

『ええ。一度発動してしまえば、全盛期の私でも瞬殺出来るようなものよ。…対処法を知らなければね』

うわぁ。そりゃまたどんだけえげつないものなんだろうか。知るのがちょっと怖いんだけど。

…そうして私達は、神の眼を封印すべく飛行竜へ積み込んでダリルシェイドへと飛び立ったのだった。
これ以上あいつの思い通りになんか、絶対させやしないんだから。ここからは私の番だ。

2015/01/05
2015/01/11.加筆修正
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