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月へ唄う運命の唄
剣聖杯(前編)5

此処はダリルシェイド城敷地内にある演習場。
…とは言っても、通常は兵士の訓練に使われる事は殆ど無く、基本的には大きな式典などに使われる場所で、周囲を高い外壁で囲い、椀のように中央へ向かい緩やかな傾斜が滑っている。
その傾斜に沿い人が座れるようなベンチが備え付けられ、中央の景色を観覧できるようにされている。
また、演習場の中央部…椀の底に当たる部分は雑草も何もない、ただ乾いた土が広がるグラウンドになっており、遮蔽物や障害物となるようなものは一切無い。
さらにそのグラウンドを円形に取り囲む高さ3、4メートル程の壁があり、その壁の直前まで傾斜に沿ったベンチは続いている。
グラウンドを囲む壁の東西南北にそれぞれ一ヶ所ずつ格子付きの出入口が設けられ、その奥には薄暗い通路が伸びている。
…コロシアム、である。これと似たような建造物はフィッツガルドのノイシュタットにも存在するのだが、向こうはこちらとは違い頻繁に催し物に使われているようだ。

―…コツ、コツ、コツ、コツ…

そんな場所に響く、硬い靴音。コロシアム内部の連絡通路をその男は歩き回っていた。

「…ふむ…」

男は特に何をするでもなく、通路の景色を眺め一声漏らすと、再び先へ進み始める。

特に何か怪しい行動をするわけではない。ただただ今は無人のコロシアムを歩き回り連絡通路をまず一周。通路内の階段から上階へ上がり外へ出ると、今度は観覧席をぐるりと時計回りに歩き回り、外へ出た場所と反対側の出入口から再び内部へ。
そしてまた通路を歩いて地上の出口を通りコロシアムから離れてゆく。男は一度コロシアムを振り返ると、興味を失ったように今度こそその場を去って行った。


――…はぁ…。

手紙の内容に目を通した少年・リオン=マグナスは、あまりの馬鹿馬鹿しさと面倒さに溜め息をついた。

くだらない。なんで今更、あんなお子様の祭りに僕が参加せねばならないんだ。確かに昨年僕は剣聖杯に出場し、優勝を果たした。
そして優勝者は次の年の大会に任意でシード参加出来る。強制ではない。…ないのだが…

「ヒューゴ様は僕に何をさせたいんだ…」

そう、これは実父であるヒューゴからの一方的な通達であった。"今年の剣聖杯にシード参加を申し込んだ"と。わざわざこのような通達を寄越す程である。結論から言えば強制的に参加確定なのだ。

気が重い。

確かに、上位まで残る参加者にはそこそこの使い手が居るには居る。だがそれも彼にとっては素人に毛が生えたようなもので、真剣勝負と呼べるような試合は一度としてなかった。
そんな思い出も相まって、恐らくは無駄な労力を費やす一日になるだろうことを想像した少年は、部屋に置かれた机に突っ伏して再び溜め息をつくのであった。


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