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月へ唄う運命の唄
ハイデルベルグの奪還5

そうして暫く進んだ先、地下通路を抜ける階段は罪人を閉じ込める牢獄の一室に繋がっていた。
通路を抜けた事で途切れたアンデッドの出現のおかげか、ようやく正気にもどったらしいルーティがそこでやっと疲労を自覚したらしく床にへたりこんでしまった為、一旦休憩を挟むことにした。
30分程腰を降ろして休んでる間、少し気落ちして見えた人物が居た。――エミリオだ。
一体どうしたのだろう。普段からあまり口数の多い方じゃない彼だが、いつにも増して寡黙になっているような気がする。気にはなるのだが、先日のキス未遂の一件もあってどうにも話し掛けづらい。何か悩みでもあるのだろうか?

《…ねぇ姫》

《ん?何かしら》

《エミリオ、元気ないみたいだけど…何か知ってる?》

《……さぁ、どうしてかしらね。私は何も》

《そっか》

まぁ、常に一緒に居るんだし私が知らないなら姫も知ってるわけないよね。
それでも、ここ最近妙にアクティブな姫ならあるいは、と思ったけれど、それも期待外れだったようだ。

「よっし、休んで楽になったし先を急ぎましょ」

と、そこでへばっていたルーティが立ち上がって声を上げた。
彼女はぼうっと彼女の隣で寄り添うように座っていたマリーの手を引いて立ち上がらせると、フィリアと雑談していたスタンの頭をばしばし叩いて出発を急かす。
わかったわかった、と苦笑いしつつ立ち上がるスタンに気付いたチェルシーが、エミリオと同じような暗い顔で何かを考え込んでいたウッドロウさんに声をかけていた。
…みんな、何かしら抱えている。
ルーティはマリーの事を案じ、マリーは夫の…ダリスさんの事を考えて。フィリアはフィリアでどこか緊張しているようにも見えるし、相手をしていたスタンも心配そう。ウッドロウさんは、父王が倒れた今恐らく今後の国を担う事になるだろう王族として思うところがあるみたいだし、チェルシーはそんな彼を支えようと健気に尽くそうとしてる。
…そしてエミリオと、私も。

頑張らなきゃ。

そう思った私は、周りの様子に気付かず未だ座り込んだままでいるエミリオに出発を促すために声をかける事にした。

「――かくなる上は答えは一つだ…何を言おうが聞く耳は持たん。行くぞ!」

片刃のナイトブレードを構え、切っ先をマリーに向けたダリスさん。困惑しつつも戦士の本能か、応じるように戦斧を掴み直したマリー。
王城内部、グレバムがよく姿を見せるという時計塔へと続く道、少し大きく開けたその場所でダリスさんは待ち構えていたように仁王立ちしていた。
地下通路以来途切れたアンデッドの代わりに遭遇するようになった反乱軍の兵士から侵入者が現れたと報告でも行っていたのだろう。私達が現れた事自体にはさして驚きを見せなかった。
が、その中に自らの妻であるマリーが含まれていた事には多少なりとも動揺したらしく、一瞬だけだが狼狽えたようにその鋭い眼光が鈍ったように見えた。
記憶を取り戻したと、聞きたい事があるとスタンとともに訴えたマリーだったが、彼にとっての明確な敵であるウッドロウさんと行動をともにしている事で神経を逆撫でしてしまったらしく、彼自身が言うように聞く耳を持たなかったのだ。

「やるしかないみたい。…ねぇダリスさん、八対一、それも一人一人が当千の実力を持つソーディアンマスターや客員剣士の私達が相手だけど…それでも、剣を納めてはくれないんだよね?」

「無論だ」

「………そう」

覚悟を感じた私も応じて羽姫を抜く。そして、

「リオン、彼を動けない程度に痛めつけよう」

「わかった。他の連中は手を出すな。僕らの邪魔だ」

背後で驚いたような気配がした。けれど意図を察してくれたらしくすぐに応じてくれる。

「セインガルドの客員剣士とはいえ子供二人に負ける私ではない――後悔はするなよ」

八対一、と言っておきながらのこの発言を侮辱と受け取ったらしい彼は怒気を隠さずに剣を握る手に力を込めた。挑発による誘導は成功、あとは私達が無力化するだけ。


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