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月へ唄う運命の唄
ハイデルベルグの奪還4

「もしダリスが本当に、グレバムに加担しているのだとしたら…」

「その時は、どうするつもり?」

私が背後に居たことにも気付かなかったらしいマリーは、少しだけ驚いたように目を丸くしていた。

「クノンか…いや、気にするな。ただの独り言だ」

スっ、と再び背を向け歩き出そうとするマリーの肩に手を置き、自らの方へ引いて振り向かせる。

「ごまかさないで。…ねぇ、自分を信じて。ダリスを信じて。信じ続けていれば、真実はきっと希望へと繋がるから。絶対、未来は裏切らないから!」

真っ直ぐに彼女の瞳を見つめ、力強く、かつ優しく諭す。
その言葉に再び暫く目を丸くさせていたマリーだが、少ししてフッと笑みを零し私の頭に手を乗せ、髪を撫でてきた。

「?マリー?」

突拍子もないマリーの行動に、今度は私が目を丸くする。
慰めて、支えようと言葉を投げかけていた立場としては全くの予想外。

「ありがとうクノン。クノンにそう言われると、不思議と信じられる気がしてきた。…それに」

そう言うクノンの瞳もまた、何かに怯えているように感じたから。

マリーが飲み込んだ言葉をクノンが知る筈はなく、くすぐったそうにするだけ。

あ、れ?もしかして立場逆転してる?

「あのー、マリー?」

「あぁ、悪かったな…つい、妹が居るような気分になってしまった」

妹、という単語に一瞬ギクリとした私だけど、ちょうどいい身長だからというマリーの言葉と日頃からの天然さに、私が思ったような意味はないと少しだけほっとした。
反面、少しだけ悲しくもなる……"妹"、か。

「マリー、確かに私は身長高くないけど。いいもん別に小さくたって」

「ははは、まぁ拗ねるな。まったく、可愛い子だなクノンは」

内心を悟られまいと、わざとらしくぶすくれた顔を作れば、ぎゅうと抱き締められた。……あの、私はぬいぐるみか何かじゃないんだけど。

「さて、それじゃあ私達も出発する準備をしようか」

ともあれ、少しでも元気が出たみたいで良かった。辛そうな姿は似合わないから。
そうして私達は改めて荷物を整理すると、王宮へと続く地下通路を再び歩き出した。

――それにしても。この通路はいやに不浄霊が多い。それもここ最近のものじゃない、かなり古い時代…それこそ数百年以上は昔と思われるものだ。
右を見ても左を見ても、同様の時代と思われる軍人やそれに類するものが多い。
傷付いてへこんだ鎧、刃が欠けてとてもじゃないが斬れそうにもない剣、半身を赤黒く染まった包帯で包まれた者…恐らくは戦争で亡くなった人々。
今回の動乱とはまた別口とはっきりわかるほど、"色"が古すぎる。
そしてそのせいなのか、俗に言うアンデッドと呼ばれる種類の魔物ばかりがやけに現れる。
魂が穢れ悪霊化したシャドウや火の玉のウィルオウィスプ、レンズが死体と融合したらしいゾンビなど、無駄に多彩な様子はさながらホラーハウスだ。
そういえば、さっきからルーティの声が聞こえない。
この通路に入る前の怖がりっぷりからすると気絶していてもおかしくはないかも知れないと思い、辺りを探ってみると無言で淡々とゾンビを氷漬けにし続けている姿が見えた。

「―…――………―」

?いや、何かぶつぶつ言ってる…?晶術の詠唱なのかな?それにしては随分長いし無関係に術連発してるような…?

さりげなく近付いて聞き耳を立ててみた。

「……駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐してやる駆逐……」

「……………」

うん。私ハナニモ聞イテナイ。

光を失くし据わった目をしながら呟き続ける彼女からそっと離れた。
中空から放たれ続ける大木のように巨大な氷の杭の数々…上位晶術のアイシクルの嵐は、私達が進む地下通路をすっかりと文字通り氷の世界へと変えていった。
魔物は勿論岩壁や地面、天井までも全てが凍り付き、ただでさえ温度の低い空気はさらに急下降。
おかげで歩きにくい事この上ないが、異様な雰囲気で暴れまわる氷の女王と化したルーティに気圧されてスタン他全員が彼女を止められなかったのだった。


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