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月へ唄う運命の唄
ハイデルベルグの奪還3

――「しまった、暗くて周りが見えないぞ」

勢いよく飛び込んでみたはいいものの、予想外に周囲が暗く目視出来ない。
…これはスタンにとっては予想外であるが、普通の神経を持っていれば予め予測出来ることではある。
当然のようにディムロスに怒鳴られていると、唐突に人の気配…殺気を向けられていることに気付く。

ヒュッ

何かが空気を斬り裂く音に慌ててディムロスを抜いたスタンは辛うじて襲い掛かる剣檄を弾いた。
鋭く、重い。痺れる手に敵の実力を察して緊張しつつ振り向いた先で通路いっぱいに皺枯れた怒声が響き渡る。

「曲者めが!このダーゼンある限り、此処から先は通さん!覚悟せい!」

暗闇の向こうから聞こえた老兵らしき声に、半ば混乱してか俺は敵じゃないと叫ぶスタン。
暗闇の中ではお互いに姿は目視し難い上、通常でも敵か味方かなどは判断出来ないのだが…それは間もなく追い付いたウッドロウの声により収拾する。

「で、殿下!?…おう、本物だ!本物の殿下だ!間違いない!!…生きて再び殿下にお会い出来るとは、このダーゼン、感激ですぞ!」

殺気と剣を収め、通路に明かりを燈した老兵はウッドロウの姿を確認するや彼の前に跪ずき頭を垂れる。

「あぁ、助かった」

緊張が解けたスタンはその場にしゃがみ込んでしまう。
そこに同じく追い付いていたクノンが顔を覗き込みつつ、

「罠の可能性とか何も考えないで突っ走るからだよ…首が飛ばなかっただけよしとしなきゃ」

ぽん、と肩に手を置き笑みを向けてやれば、今頃になって実感したのか震えたような笑い声だけが返ってきた。

スタンに奇襲をかけた老兵・ダーゼンの案内で、街の避難民達がいる休憩所へと通された一行はそこに腰を落ち着けて彼の話を聞くことに。
グレバムにより操られたモンスターや反乱軍の兵士により街の民は恐怖に怯え、不安は募り。国を変える…そう息巻いていた反乱軍達もグレバムの駒となり街で非道を尽くすばかり。
それを聞いたマリーは、ダリスがそんな事を許す筈がないと口にしてしまい、ダーゼンに怪しまれてしまうが話の続きを促す事で事無きを得た。
そして続くダーゼンの口から出た衝撃の発言。

王家を脅すような奴らは、征伐するのが当然だったのだ。…と。

「王家を脅す、とは?」

2年前の動乱について詳しい事情を知らないウッドロウさんの一言…それが真実への鍵。

「おや、殿下はご存知ありませんでしたか。2年前、サイリルの一党が訪れ、前陛下に独立を要求したのです。断るなら、武力闘争も辞さずと。傲慢にも程があるというものです」

「なんだって………」

「そうだったのか…」

真相を聞かされ、特に大きな反応を示したのはやはりマリーにウッドロウさんの二人であった。

「武力闘争など持ち出せば、そうなるのは当然だ」

目を伏せ、腕を組んで聞いていたエミリオが呟く。

「国に、王に対しての侮辱…並びに謀反。王家としては民を守る責務がある。武力闘争ともなれば民に多大な被害が出る。大きな戦争になる前に、抑えねばならないからね」

私が補足してやればダーゼンが頷く。
未だに信じられない、と言った様子でマリーは何事かを呟き続けている。
ウッドロウさんはそんなマリーの様子に気付いているのかいないのか、ダーゼンにグレバムの所在を尋ねる。
その答えは時計塔、今やグレバムの腹心も同然となったダリスさんも傍に居るであろうと彼は忌ま忌ましげに表情を歪めた。

「私達の目的であるグレバム、神の眼…そして恐らく2年前の真相を知るダリスさん」

「目指す場所は、ただ一つか」

私が顎に手を添え、尤もらしく呟いてみせればスタンが意を決したように拳を握り言葉を継いだ。

「わからない…ダリスが何を考えていたのか。私は彼の事を、本当は何も知らなかったのか?」

一方で、ダーゼンから聞いた話により混乱を深めてしまったマリーは、いつの間にやら座り込み、両手で頭を抱えいやいやをするように左右に小さく振りながら呟いている。
隣ではルーティが何が真実かを見極めようと励ますが、その言葉を意味として捉えているのかは、不明な声が返されるだけ。
行くしかあるまい、重い空気を破るように促したディムロスの声に、城へ向かうべく各々が身仕度を始める中、短剣を目の前に掲げ数センチ抜くマリーに気付いた。


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あきゅろす。
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