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月へ唄う運命の唄
ハイデルベルグの奪還2

サイリルを出発した一行は、およそ半日をかけて首都ハイデルベルグへと到達した。
美しく整備された町並み、街の奥に聳える大きな城、その足元には国民の憩いの場となるであろう広場…平時であればそこには人々が溢れ、城下であるという威厳も織り交ぜつつ、活気に満ちた良い街であろうことは容易に想像出来る。
しかし今、この街には人々の気配はなく、また荒れてしまっているためその様子を見ることは叶わない。

まるで街全体が、喪に服しているよう…

フィリアの言葉にも納得出来るほどに、静か過ぎるのだ。しんしんと降り積もる雪が、またそれを強く思わせる要因となっている。
一行が街に到着して間もなく、家屋の脇から現れたファンダリア兵に促され物影に隠れれば、見回りに来た反乱軍の兵士達が目を光らせる。
そして当然の如く城や街中に配置された守備兵や魔物達…これらの事から城への正面からの突入は不可能。
しかしそれはウッドロウらが城から落ちる際に使用した地下非常通路を使う事で解決する。
無論、国家…城の防衛上で最重要機密であるそれを教えるというウッドロウに、異を唱えた生真面目な軍人そのものであるディムロスだったが、他に打つ手がない以上やむを得ない為渋々承諾。以上の経緯をもって現在クノン達は、街の東にある、とある民家のリビングに居る。
そこには地下通路への入口があるのだが、隠すように敷かれたカーペットと床板を外せば、明かりがない為暗く薄気味の悪い階段が現れた。

「――ここが非常通路の入口だ」

「真っ暗で、奥がどうなってるのかわかりませんね…」

床板を外し階段を指さすウッドロウさんに、覗き込んだフィリアが困ったように呟く。

「スタン、あんた先に行って」

同じように覗き込んでいたルーティが側に居たスタンに言えば、よし分かったと勢いよく突入していってしまう。

「……躊躇い、ゼロだったわね」

これにはさすがに予想外だったルーティが呆れた声を漏らす。否、ルーティだけじゃない。フィリアは口を半開きにしたままぽかんとしているし、チェルシーも同様だ。エミリオに至っては深い溜め息ついでに軽く額に手を当て頭痛でも抑えるかのようだ。

「だね。あれ、ルーティ?もしかしてスタンと一緒に行きたかったんじゃないの?手、泳いでるし」

「んなっ!ば…ばっかじゃないの!?そんなわけないでしょ!…その、なんかあった時に…か、壁にちょうどいいから前に居て…ってそういうアンタはどうなのよ!?」

含んだ笑みで言ってやれば顔を真っ赤にして反論するルーティ。
何かを求めるように彼女の腕が前に中途半端に伸ばされ目的を見失ったように見えたので、なんとなくからかいたくなった。

「私?別に平気だけど。トラップの類いも魔術的なものなら感知出来るし機械的なものでも違和感感じれば反応出来るし」

身体強化はその為にも使える。例えスイッチに触れたとしても罠の作動前に回避するだけの反応速度は出力出来る。そういう類いの仕掛けなんて山賊やら盗賊やらのアジト殲滅任務で嫌という程体験してきた。

「だぁあ!そーいうコトじゃないわよ!!…その、暗いし…なんか"出そう"な雰囲気してるし…」

その、の辺りからだんだん尻すぼみに小さくなっていく言葉に、あぁ、と納得。

「もしかしてお化け怖いの?」

「ちちちちち違うわよっ!?」

「大丈夫大丈夫、居たら教えてあげるからそこ避けて歩けばいいよ」

私がそう言った瞬間、先に突っ走って行ったスタンと知っているエミリオを除く全員が「え゙」と言って硬直した。

「?」

『知らなかったの?この子、視える子よ?というか、私も言ってしまえばお化けなんだけど』

言ってなかったっけ?と言って誤魔化すように笑ってやれば、ルーティは頬を引き攣らせつつも一歩、二歩と後ずさる。そして。

「えっと、その、ルーティさん、何故私のローブを掴んだのでしょう?……て、きゃあああっ!?」

ガシリ、とフィリアのローブを掴んだルーティはそのまま「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」と絶叫しながら階段の先へと全力疾走して見えなくなった。

「私を置いていくな!」

慌てて後を追いかけていくマリーに、ガタガタ震えながらしがみつくチェルシーに苦笑いしながら「お先に失礼するよ」と階段を降りていく割りと冷静なウッドロウさん。そして。

「ふ、奴にも怖いものがあったらしいな」

と私の肩に手を置いたエミリオは、いつになく楽しそうな笑みを浮かべていた。それはそれは悪そうな笑顔で。

「えっと、あの……」

唐突な展開に置いてきぼりな私は、皮肉な事に先程のルーティと同じポーズで固まることしか出来なかった。


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あきゅろす。
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