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月へ唄う運命の唄
剣聖杯(前編)4

「でも武器屋のおじさんには悪いことしたなぁ…」

太刀を鞘に納めながらクノンは刀匠の情けない顔を思い出して苦笑する。

「あはは…でも仕方ないわよ。片っ端から文字通り粉々になっちゃうんだから」

その光景を一緒に見ていたマリアンも苦笑い。
やはり、紫桜姫に刀身が無いのには理由があるらしい。恐らく、籠められている力を上手く扱えるようになればそれも判明するのだろう。
剣士としてはある程度の実力はあっても、そちらの異能方面に関しては師と呼べる者が居なかった為、あまりにも未熟であったのだ。扱えるものが極端に限られている。
クノンが少しだけ自らの未熟を悔いて表情を暗くしていると、目の前にスッと封筒が差し出された。

「…?」

「それでこれが、二つ目の預かり物よ。開けてみて」

軽く微笑みながら差し出されたそれを受け取ると、クノンは丁寧に封を解いて中から一枚の書類を取り出した。

「…"剣聖杯"参加申込み書…?」

マリアンの説明によれば、剣聖杯とは、セインガルド国内の武道大会のようなもので、国軍兵士として将来有望な若者の育成を名目としたもの。
また、その中でもさらに優れた者を選出し、一定のレベルに達していればその場でのスカウトにも利用される事がある。
毎年行われるこの大会の参加資格は存外緩く、剣に限らず槍・棒・武(格闘)術…など流派問わず一年以上の経験があれば、満15歳以下の少年少女というだけ。
但し、殺傷力の高い真剣などは禁じられ、代わりに木剣など死に直結しない武器のみ許可されているなどであった。

「ヒューゴ様に言われたのは、クノンちゃんはその歳で既に兵士として即戦力に近い実力を備えてるから、ここである意味でのコネを作って今後の選択肢を増やしてはどうか、という事と、あとは純粋に試合を楽しんできて欲しい、という事だったわ」

要は、好意的に受けとれば半月もこの部屋にほぼ缶詰め状態になっている事の罪滅ぼしも含まれているという事。
ヒューゴ自身の命令で今は勉強に長期間費やすことになり、また今後クノンは性別を偽り続けなければなくなるのだから。
もっとも、勉強の方はやはり必要なことなので、教材や家庭教師(本職はメイドだが)まで用意してくれた事にはクノンはむしろ感謝しているのだが。

「いろんな人と試合出来るって、楽しそう…」

ちょっとわくわくしてきた。

既に意識はそちらに向きはじめているのか、なんだかぽーっと中空を見つめて口を半開きにしているクノン。

「参加、という事でいいかしら?」

そう笑ってマリアンが問いかければ。

「うん!」

クノンはきらきらと輝く瞳で満面の笑みを浮かべ頷くのであった。


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あきゅろす。
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