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月へ唄う運命の唄
君の隣で8

僕が緊張に身を堅くしていると、ルーティがクノンの応急処置をしてくる、と耳打ちしてきた。

「あの出血量はさすがにちょっとヤバい気がするし、急がないと後遺症が残っちゃうかも知れないから…何かあっても任せてていいかしら?」

「構わん。というより…頼む。悔しいがお前にしか出来ん」

それを聞いたルーティは余程驚いたのか目を丸くして僕を見ていた。いいから急いでくれと言って追い払う。人がせっかく素直に頼んだというのに…失礼な奴だ。
…と、その間にどうやらジョニーとティベリウスが一騎打ちする事になったようだ。
それをうけて決着にはこの宝剣を、とジョニーにシャルを投げ渡す。
アクアヴェイルに代々伝えられていたものだ。今の所有者は僕であることに変わりはないが、やはり王族同士の決闘には相応しい得物が必要だろう。

「恩に着るぜ」

受け取ったジョニーは二・三度振り感触を確かめると、いいぜ、とティベリウスに向かい合う。構えは半身、剣先を相手に真っ直ぐに向け重心はやや前方。どこかで見覚えのある型だった。
そしてそれはどう見てもとても素人の出来とはいえない、立派なもの。

「ジョニーよ、貴様が此処へ来た本当の理由はなんだ?」

エレノアの仇討ちか、それとも王座の奪還か…問われたジョニーはさぁな、とだけ答えはぐらかした。
エレノアとは、ここにいるジョニーとモリュウの主であるフェイト、そしてこのティベリウス…三者の間で翻弄され、非業の死を遂げた悲運の女性の名だ。その詳細はここトウケイに着くまでの航海の途中でジョニーとフェイトの二人から聞き及んでいる。
二人からすれば…特にジョニーからすればティベリウスは憎き仇なのだろう。
だが彼は、決してその本心を語らない。誰にも悟らせない。お道化て飄々と躱し続けるその様は、外す事のない仮面の下にその素顔を隠すまさにピエロのようで。

――そうしてたったの一合。ただそれだけでこの決闘は終わった。アクアヴェイルを蹂躙し続けた暴君・ティベリウスの死という形で――


――ティベリウス、討たれる。

その報せはまたたく間にアクアヴェイル三領全土に広まった。それまで死んだように眠っていた街に人々が姿を現し、皆歓喜の声をあげた。
先に街の人々に報せに向かったフェイトから聞いたのだろう、城から出て来た僕達の姿を見るや口々に礼を述べてくる街の人々に、皆の顔には笑みが零れる。ジョニーに至っては、その美しい歌声で歓喜の歌を披露し、喜びを更に広げていた。
…そうしてひとしきり騒ぎ、一夜明けた朝、僕達はグレバムを追うべくスノーフリアへと向かう船の待つ港へ来ていた。
これからもジョニーも一緒に、そう思っていたらしいスタンであるが、それはフェイトの言葉により妨げられる。
アクアヴェイルの復興――それは王族であるフェイトの、そしてジョニーの責任であるからだ。

「実のところ、1番怖いのはフェイトだったってわけか」

冗談めかして笑いを誘うジョニーの目は、しかし責任感に満ちていて。隣で笑うフェイトも、親友のその目に安心しているようだった。

『あの二人なら、きっと大丈夫ですよね』

「…あぁ、そうだな。恐らくこれを機に、敷かれていた鎖国体制も解かれるだろう」

一人皆の輪から外れて、港の壁に背を預けていた僕は、問いかけてきたシャルにそう返した。

『そういえば、クノンは大丈夫でしょうか?あの時の彼女、普通じゃありませんでした。あのデタラメな強さもですが、別人のような冷たさでした…正直、寒気がする程に』

「あぁ…覚えているか?クノンが気を失う直前、紫桜姫は"わたしのせい"と言っていたな。恐らく、今回のアレはあいつの地雷にティベリウスが触れたんだろう。そしてその感情の影響をモロに受けたクノンが限界を無視して暴走…といった所だろうな。あの両目に関しては謎のままだが、少なくとも身体の傷に関してはルーティが一晩中ついて治療したんだ。認めるのは癪だが、アトワイトの指導の下に的確な処置をしたようだし心配はいらんだろう」

『そう…ですよね…。大丈夫、ですよね』

「次の目的地はスノーフリアだ。少々長旅になるだろうし、ゆっくり休ませてやれる。…一刻も早くグレバムに追い付きたいところではあるがな」

歓喜渦巻く喧騒の中、一人静かにその場を離れる。
時間になれば残りの連中も乗船するだろう、そう思った僕は一足先に船の中へと足を踏み入れたのだった。

2014/12/07
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