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月へ唄う運命の唄
君の隣で7

「待って」

放たれた、熱のない冷えた声にその場に居た全員が硬直した。いち早く駆け出そうと既に一歩蹴りだしていたリオンですらも。

「ティベリウス、でしたね。あなたが"女"というものをどう見ているのか、先程の発言でよくわかりました」

『あくまでも男の下に、モノであるかのように。同じ人とは見てもいない』

「『なればその身をもって知るがいい…女の強さを。虐げられた女の怒りを』」

「武神ノ式・迅雷」

ヂッ、と僅かにノイズの走るような音とともに、唐突にクノンが姿を消した。彼女が立っていた場所に、僅かな焦げ跡だけを残して。

「なっ…消eぐぉふっ!?」

と思えば、次の瞬間には馬車にでも撥ね飛ばされたように顔面を歪にゆがめながら吹っ飛ぶティベリウス……そしてそれは"ひとりでに"右に左に上に下にと空中でゆらゆらと舞い踊る。
ジョニー並みの身長に、コングマンに匹敵する筋肉を持つ大質量であるティベリウスの肉体が、だ。
ヂッ、ヂッ、ヂッ、と音がする度にそれは飛ぶ向きを変えている。
三秒程それが続き、げぶっ、と蛙が潰れたような声を漏らしながらティベリウスの体が畳に沈んだと同時、消失していたクノンが再び姿を現した。

「ごっ…ごぶっ…が…ぎ、ぎざま゙…」

「…雷速で殴られ続けた気分はどう?峰打ちでも効くでしょ?」

遠目に見ていても全く視認出来ない速度で顔面を殴られ、見るも無残に顔が腫れ上がっているティベリウスはまだわかる。
が、一方的に攻撃していただけで傷など負う筈のないクノンの全身からも、少なくない量の血が流れていた。
それは肩や肘や膝、手首などの関節から主に吹き出しているようで、どう見ても過剰な身体強化に身体が耐えきれていない証拠だった。…が、もう一つ、普段とは違う点がある。

「両目が…蒼い…?」

「が、ぶふぅ゙…ば、化け物…め…」

「言い残す事はそれだけ?なら、たっぷりと後悔しながら、逝くといい」

――まずい!?

「スタン、マリー!!クノンを止めろ!!」

叫ぶリオンの声に我に返った二人が走り、クノンの両腕を掴もうとするが、それよりも一瞬早く再び姿が消える。そして次の瞬間――

ガァンッ!!と金属のぶつかる耳をつんざくような大音響。
間一髪、ティベリウスの前に滑り込むようにして割って入ったリオンによって、クノンの斬撃は構えられたシャルティエに阻まれた。
びりびりと伝わる衝撃、刃を返す事なく振り下ろしている事から、間違いなく殺す気で振るわれたものとわかる。ぶし、と彼女の右肩からまた血が噴出した。

「クノン!紫桜姫!!やりすぎだ!!もうこいつに戦う力はない!」

『それにクノンもボロボロじゃないですか!このままじゃクノンまで失血で死んじゃいます!!』

「……エ……リオ…ン…?」

あ、あれ?私、なんでエミリオに攻撃して…?

気が付いた瞬間、全身に凄まじい痛みが走る。頭がくらくらする。胸の内から溶岩のようにぐらぐらと沸き上がっていたドス黒い感情の波が急速に冷えていくのを感じた。そしてそれは"私自身の感情じゃない"。

『…ごめん、なさい…わたしの、せいね』

あぁそうか、これは姫の…お姉さんが殺された、と、……き、……………の………………

そのまま私の意識は、吸い込まれるようにしてブラックアウトした。

――がくり、力を失い倒れこんできた彼女の身体を抱き止める。
各関節や大きな腱のある場所を中心にもはや血塗れになった彼女を、部屋の端まで運びそっと寝かせた時だった。突如外から何かとてつもなく巨大な生物が激しく羽ばたくような音が聞こえたかと思えば、ディムロス運搬の消失事件時から行方不明だった飛行竜が何処かへと飛び去って行くのが開けた窓から見えた。

「ぐ…グレバムめ…ファンダリアへ逃げたか…!」

苦しげな声に後ろを振り返れば、ティベリウスが悔しそうに拳を握る姿が。どうやらまだ意識は保っているらしい。あれだけ殴られたというのに、呆れたタフさだ。
……が、さすがにやはりもう動けんらしい。
そしてその姿を見て、それまで傍観者となっていたジョニーがざまぁないな、とティベリウスに冷たい目で言い放つ。

「…ふ、貴様より、余の方が道化じみているやも知れんな…だが、」

このままでは死ねん、

満足に動かせない身体に鞭を打つように、ふらつきながらではあるが立ち上がるティベリウス。大太刀を畳に突き刺し支えにしてやっと立っている状態ではあるがその目だけはぎらついている。

確かに今、奴は瀕死の重傷のはずだ…何処にそんな力が残っている?

ティベリウスの思わぬ気迫に、無意識に掌が汗ばむのを感じる。


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