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月へ唄う運命の唄
君の隣で6

順番通りに十二支の扉を開けて行き、最後の猪の通路を歩いていると、予想通り仕掛けが解除される合図であるかのようにガコン、と低い振動を伴って湾曲していた通路が真っ直ぐに伸びていく。
そうして見えた出口の扉の先には長い階段があり、それまでの広間に出る事はなかった。
漸く先に進めると安堵しつつ昇っていくと、やがて終点を表すように大きく豪奢な装飾のなされた扉が顔を出した。それを緊張しつつも開き、扉の中へと侵入していく。

「見つけたぞ、グレバム!!」

スタンが叫ぶ。

「フン、奴らめ、こんな所まで来おったか。…ティベリウス大王陛下、奴らを!!」

乗り込んで来たスタン達を見て苦虫を噛み潰したような顔をしたグレバムが、隣に居たいかにも武将のような風貌の男に依頼する。腰にはやたらと長大な大太刀を携え、迎え撃つ用意は万端といった様子だ。

「わかっておる。さぁ来い小童ども、我が刀の錆にしてくれるわ!!」

その男…ティベリウスは着ていた胴着の上半身をはだけ、その年齢からは考えられない程に鍛え上げられた屈強な肉体を晒す。
そして腰に差していた大太刀を抜き、構えて殺気を当ててくる。………が、

「『…変態…』」

その言葉に皆が背後を振り返る。ティベリウスに到っては目を剥いて大口開ける始末である。

呟いたのはクノンと紫桜姫。

「ねぇ姫、あそこに露出狂がいるよ」

『そうね。まごうことなき露出魔ね。どうしてこうあの年代の男はやたらと脱ぐのかしら。ノイシュタットにも居たわよね、タコみたいな肉達磨』

「うん、居たね。筋肉自慢のタコ坊主さん」

二人揃って非難の声を浴びせる。それに対しティベリウスはただ茫然と口を開けたまま…であったが。

「だ、だ、黙れ!!これは儂の戦への気合いだ!!それと誰がタコ坊主だ!」

さすがに軽蔑の視線に耐えられなかったのか反論の叫びを上げる。額には青筋が浮かび、露にされた筋肉が膨張する。

「舐めた口をききおって…小娘、話によれば貴様も刀使いであるらしいな。セインガルドの似非剣術が儂に通用すると思うなよ」

………かちーん。

「ふうん、似非剣術かどうか、その身で確かめるといい。…紫桜流、剣士クノン。参ります!」

右手を腰に構えながら地を這うように低い姿勢で突進する。敢えて普通の人にも反応出来る程度の速度で。

「丸腰で突っ込んでくるとは、馬鹿めがぁ!!」

迎え撃つティベリウスの、直上から振り下ろされる剛剣の一閃。ズドンッ!!と爆発するような音とともに和室となっていた部屋の畳が一枚、V字型にせり上がる。

「ぬぅっ!?何処へ消え…がぁっ!?」

ゴキン、とティベリウスの頭上へと跳んだクノンの一撃に後頭部を強打されたティベリウスだが、それでも位置を捕捉し迎撃の斬り上げ。
しかしそれが振りきられる頃には背後へと着地を済ませ、横一文字の一薙ぎを浴びせる。

「ぬぅうっ…おのれちょこまかとっ!」

ティベリウスの振り向きざま返しの一撃は虚しく空を斬り、手前数メートルの位置に後退したクノンは隙なく日本刀である羽姫を構え直した。

「今、あなた二回死にましたけど…これでも似非剣術?」

今の二撃はどちらも峰打ち。一度目は頭を縦に真っ二つに、二度目は胴を横に真っ二つ。刃を逆さに返していなければ…まして紫桜姫の布都御魂の雷剣であれば確実に死んでいた。

「うぬぅぅ…馬鹿にしおってからに…!!……まぁよい。似非と呼んだ事は訂正してやろう。成る程腕は女だてらに確かなようだな。だが今の攻撃で儂を殺さなんだ事、とくと後悔するが良い。これから先、儂に慢心は無い」

すう…とティベリウスの気配が研ぎ澄まされてゆく。それまでゆらゆらとだらしなく揺れていた闘気が、鋭い刃のように纏め上げられ…赤く燃え上がっていくように感じた。一度呼吸を正すように閉じられた瞼が開く頃には、一人の屈強な武人となり堂々とその場に君臨する。

「…待たせたな。そこの童(ワッパ)どもよ、貴様らもまとめて来るがいい。確かに強いが、この女一人のままならば生かして犯すも殺して擂り潰すも楽なものだ」

その声に、それまで突然始まった戦闘に呆けていた全員が一斉に構えた。つい先程までのティベリウスとは明らかに違う、達人の闘気。

「ほう…貴様こそ後悔するなよ、この僕を挑発した事。クノンには指一本触れさせはせん!!」


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あきゅろす。
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