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月へ唄う運命の唄
君の隣で5

それから約二日程して、トウケイ領に到着した一行は、街の様子に息を呑んだ。

「静かだ…」

『ふむ、これはまた酷い有様だな』

スタンが呟けば、ディムロスも憐れみの声を漏らす。
それもそうだろう、街中を歩けど人の気配は感じるものの、家屋の戸や窓は全て閉じられ、寒々とした風にごみ屑は地面を転がり、田畑は荒れ放題。
領民達は皆、まるで何かを恐れるかのように閉じ籠っているようで、国としての機能は完全に停止しているようだった。
交通が封鎖されている事以上に入領を拒むであろうグレバムからの迎撃を警戒しての艦隊での入港だったのだが、なるほどすんなりと入れたわけだ。
ここまで機能が止まっていてはそれも出来ない。恐らく警備らしい警備は居城にのみにしか展開していないのではないだろうか。

「国が死んでるね…」

『えぇ、これは想定以上ね。…早急に良い主を新たに立てでもしなければ滅んでしまうわ』

ジョニーさんを横目でチラリと見ながら姫と会話していたが、素知らぬ顔で流されてしまった。

「さぁて、城に乗り込もうぜ。そこにある小船で行ける筈だ」

ジョニーさんが指差したそれを見て、なんとも言えない渋い顔をしたのはエミリオだ。酔い止めの"呪"を施した耳栓は着けている筈なのだけど、やはり苦手意識がそうさせるのだろう。

「…さっさと行くぞ」

本人としてはこんな船での移動だらけの国から早く任務を終えて出たいのだろう、早々と自ら小船に乗り込んで皆を急かす。
全員が無事乗り込んだ事を確認すると、スタンと私で船を漕いで出発。
ちなみにエミリオには大人しく待機してもらう。また無理をして敵城の目の前で倒れられでもしてはコトだしね。

――「グレバムは何処よー!!!?」

ガンっ!と激しい音を立てて扉を蹴破ったのはルーティだった。
此処はトウケイ城の最上階に程近い場所。
例によって例の如く面倒なこと極まりない罠や仕掛けを解除し、やっと広間に出たと思えば、やたら扉が多い妙な部屋であった。
扉の上にはやはり仕掛けのヒントなのだろう、動物の絵が描いてあり、これは怪しいと踏んだ私と姫が攻略法を考えるからと制止したのだが、それまでの面倒な仕掛けの連続でフラストレーションが溜まっていたらしいルーティが暴走し出した。

「おーいルーティー。乱暴はよくないぞー」

やけに冷静…否、呑気なスタンの声が広間に響く。
一体どういう仕掛けなのか、扉を開けて向こう側へと姿を消した筈のルーティは、私達が入ってきた背後の入り口から姿を現した。そしてまた別の扉へと入れば再び背後の入り口から出てくる。

『面白い仕掛けね』

「あ゙〜もう駄目。なんなのよここ。向こうの扉、どれに入っても狭い通路が続いてて、全部この部屋の入り口に繋がってるのよ」

ぺたり、とみんなの所まで戻ってきたルーティが座り込む。さすがに走り回って疲れたらしく、先程までの怒気はすっかりと消え失せていた。
おつかれ、とスタンに差し出された水筒の水を飲みながらパタパタと顔を扇ぐ。

「変な力の流れも感じないし、魔術的なものじゃないなら…やっぱりあの絵がヒントだよね」

「だろうな。竜、猿、ウサギにヘビとエトセトラ…全部で12匹の動物か。なんかどこかで見た覚えがあるんだが…何だったか」

ジョニーさんが顎に手をやり考えに耽る。

『(………)、恐らく、十二支ね。クノン、十二支は覚えてる?』

「!!なるほど…大丈夫、覚えてるよ。て事はつまり、その順番通りにあそこを通ればいいんだね」

『恐らくは。その通りに通路を通る事で、あそこの入り口に繋がっていた猪の通路が別の場所にでも繋がるようになる筈よ』

「了解。それじゃあみんな、私についてきて。ジョニーさん、ここの仕掛けは十二支の順番通りに扉をくぐるのが正解だと思います」

「ほう、十二支か!だがお前さん、アクアヴェイルの出身でもないのによくそんな古いものを知っていたな。俺のじいさんの時代よりもずっと昔に廃れた概念だぞ」

「え?…あ、あはは…姫が教えてくれた事があるんです。彼女、千年近く前の人ですから」

感心した様子のジョニーさんに慌てて誤魔化す。私が異世界からの迷子だということはエミリオとシャルしか知らない。別に隠さなくても良かったかも知れないけど、わざわざそんな事を話して今までの関係が壊れてしまう事が怖かった。


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あきゅろす。
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