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月へ唄う運命の唄
君の隣で2

潮の香り。さざめく波の音。優しく揺れる、揺りかごの中に居るような穏やかな感覚。

「〜〜っ、んんっ」

抗い難い誘惑を放つ布団から伸びを一つ、もそもそと起き上がる。

「よく寝たぁ…」

それにしても、不思議な夢を見た。
以前姫が言っていたお姉さん。その人の視点の夢。
お姉さんと言っても、多分歳は今の私よりいくつか下くらい。姫なんて今よりももっと小さかったし。…可愛かったなぁ、姫。うん、お姉さんの気持ちわかるかも。あの笑顔の破壊力は反則だよ。
軽く目を閉じて思い出すだけで、思わずへにゃへにゃに溶けてしまいそうな気分になる。あんなに素直な子が妹なら、シスコンにでもなってしまいそうな気がした。

『ふわ…おはよう、クノン………?どうかしたのかしら?』

「ふふ。あのお面、お姉さんに買って貰った物だったんだね」

『なっ…!?』

夢の記憶の姫が可愛くて、その余韻からか少し意地悪してみたくなった。

『なななななっ…何故それを!?……はっ!まさか』

「多分、正解。姫、今日夢見てたでしょ?その記憶が私にも流れてきたみたい」

『…………』

今ならわかる。多分私の中で姫は今、両掌と両膝を床につけて項垂れてるに違いない。もう少しからかっちゃえ。

「林檎飴にお面、小さな手…"さくら"は可愛いな」

『〜〜〜〜〜っ!!!!ば、ばばば馬鹿な真似は辞めて!』

「あっはは、もしかしなくても今、真っ赤になってるでしょ。恥ずかしい!って気持ちが凄い流れてきてるもん」

夢の中のお姉さんに合わせて、口調と声色を真似てみた。我ながら結構、似てるかも?

『あああ貴女は私をからかって何がそんなに楽しいの!?』

リアクション。
なんて言ったらさらに愉快なリアクションをくれそうな気がするけど、やっぱり出来ればちゃんと顔を見てお話したいなぁ。今までに二度、姫の姿を見てるけど、どっちも顔が見れなかったし。
そういえば夢の中の姫の瞳は宝石のように澄んだ鮮やかな紅石榴。肌は雪のような白さだったし。ああいう人をアルビノって言うんだっけ……あの時代にそういう言葉はなかったろうけど。
(現在もだけど)当時の日本人としては非常に特異なその外見。
もしかしたら、姫が孤独だったのは生まれのせいだけじゃなかったのかも…そんな風に考えれば、決して多くはなかったろう僅かな心許せる人に懐いてしまうのは自然な成り行きだったのかも知れない。
なんせ私ですら"そう"だったのだから。
私にとってはそれがエミリオで、姫にとってはお姉さんだったんだ。

『――ちょっと!聞いてるのクノン!?』

「あ、ごめん。ぼーっとしてた」

考え事に耽ってつい放置してしまった手前、なんだか申し訳なくて苦笑いしてしまう。

『はぁ、もういいわ。なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた…私としたことが、なんでこんなに朝から必死になってるのかしら』

ぼやく姫に一言ごめんと声をかけて、寝台から降りてシャワーを浴び、身支度をして食堂へと向かう。
その途中、ちょうど部屋から出てきたエミリオとばったり鉢合わせたのだが、おはようと声をかけても気まずそうな顔をしてスルーされてしまった。

………?

なんだかデジャビュ。なんか昔も似たような事があったような気がする。あの時は無表情で無視されたけど。
モリュウを出て数日、フェイトさんの黒十字艦隊によってトウケイへと向かうようになってから、エミリオはずっとこんな感じだった。…いや、バティスタとの戦いで私が倒れてから、といった方が正しいかも知れない。
あからさまに避けられてる、というわけでもなく、声をかければ微妙ながら反応はしてくれるし、食事の席などでもしっかりと私の隣の席について摂っているので、嫌われたわけでもなさそうではあるのだけど。

「う〜ん…?」

謎。


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あきゅろす。
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