月へ唄う運命の唄
剣聖杯(前編)2
「ん…ふぁ…〜ぁふ」
夢を見た。ここ数日、どうも同じような夢を見続けている。
これだけ続けて見るというのは少々珍しい。それに、それはとある事実を暗示してもいる。
しかしながら、自分ではその時が来るまでには忘れてしまう事も多いし、大抵はそれほど気にする事でもなかったりする。この世界に来てしなければならない事が山積みなクノンは、ほんの僅かな引っ掛かりを覚えながらも流す事にした。
窓から射し込む陽光に急かされるように、用意された服に身を包む。
「…確かに、前と比べたら着るのは簡単なんだけどさ…」
わかっていても不服、と顔にはっきりと出てしまう。
それもそのはず、その服はどう見ても男物だからだ。
白を基調としたローブに近いデザインのシンプルなものだが、下は黒地のズボン。靴はブーツ。なんでも体型をある程度隠す必要があるからだとかで、確かに一見して判断し難い。
クノンの着替えが終わった時、タイミングをはかったようにコンコン、とノックが聞こえた。
「おはよう、クノンちゃん。…あら、なんだか少し不機嫌そうね」
入室して理由を直ぐに察した女性―マリアンはクスクス、と苦笑を漏らした。
「だってぇ…」
「仕方ないわ。それもヒューゴ様のご命令…あなたがここに居るための条件なのですから」
口を尖らせて今にもぶーぶーと言いそうなクノンの頭を撫でてなだめる。
『君を引き取るにあたり衣食住は当然保障する。それに元の場所へ戻る方法も探してみよう。…がしかし、無論直ぐに見つかるわけでもない。下手をすればこの先何年も―…厳しいようだがもしかしたら一生、戻れないかも知れない。さすがにその間ずっと面倒を見続けるのは些か難しい。故に、近い将来はその剣の才をもって職に就いて貰いたい』
確かに至極尤もな話ではある。…が。
『剣を職にするならば、様々な危険が伴う。…今はまだわからんだろうが、"女"という事でさらに要らぬ危険や誤解もまた増えてしまうだろう。それを少しでも減らすために、これからは男として振る舞ってもらおうかと思うのだが』
…理屈は、なんとなく理解出来る。出来るが、納得し難い。…けれど、それがお世話になっている間必要な条件なら仕方がない。と半ば無理矢理ささやかな反発心を飲み込んだのだ。
「私としても、せっかく女の子が来たんだから綺麗に、可愛く着飾ってあげたかったんだけどね」
改めてごめんね、と申し訳なさげに微笑むマリアン。
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