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月へ唄う運命の唄
ほんの少しの。9

『こういう手合いは何らかの手段で再生能力を封じるか、又は再生が追い付かない程の大火力の連続で力押しで押しきるか、の二択ね』

『どうやって封じるんです?』

『失った部分を創造して造り直すのではなく、再生という高速の細胞分裂で修復しているのなら傷口を凍らせでもして分裂を止めてしまえばいいわ。…ただそれだとクノンじゃ氷結系は弱いし難しいわね』

「そういう事ならあたしの出番ね!」

前線をスタンとマリーに任せ回復と補助に徹していたルーティが前に踏み出し申し出てくる。さらにフィリアもそこに加わった。

「私とルーティさんで敵を氷漬けにしてみせます。皆さんは詠唱の時間を稼いで下さい!」

「あいつらが凍ったら、トドメは任せるわよっ…お願い!」

「了解!!スタン、マリー、リオンと一緒に引き続き時間稼ぎお願い。私は陣を張る!」

前方で足止めしてくれていた二人が頷き、エミリオもそれに加わる。その隙にルーティとフィリアは晶術の詠唱に入り、私は暴れ回る敵の攻撃を掻い潜りつつ洞窟の壁に呪符を張って準備をしていった。

――そしてその時が来る。

「いっくわよぉ、"アイスウォール"!…続いて"ブリザード"!」

「凍りなさい、"アイストルネード"!!」

二人の晶術が放つ凄まじい冷気の嵐が暴れ回る魔物達の生体活動を凍りつかせ、巨大な氷塊に封じ込める。これで再生能力は完全に封じる事に成功した。そして間を置かずにすぐさま四人の奥義が同時に炸裂する。

「森羅爆砕!!」
「皇王天翔翼!」
「浄破滅焼闇っ!!」
「急急如律令っ、桜乱千華陣!」

凄まじい速度で振るわれるマリーによる戦斧の乱撃が氷塊となった魔物達の肉体を次々に砕き、次いで不死鳥の如き煌炎を全身に纏うスタンとリオンから放たれる闇獄の黒炎が氷ごと焼き尽くさんと破片を蒸発させにかかる。
さらにスタンとマリーが範囲外へと離脱したタイミングで燃え盛る赤黒の炎を覆い尽くす花弁が雷放つ無数の剣へと変わり、完全にその存在を消滅させた。
再生能力を封じた上での、有無を言わせぬ大火力の連続である。

「よっしゃ、やったぁ!!」

「当然の結果だな」

一拍前までそこに存在していた魔物達の完全な消滅を確認したスタンとエミリオの二人が喜びの声を上げる。戦斧を肩に担いだマリーも満足そうに満面の笑みだ。フィリアとルーティは二人でハイタッチなどを決めて笑い合っている。
全員が持てる最大の力で、それぞれの役目を十全にこなし生まれた最高の結果だ。

「みんな、お疲れ様っ」

全員が仲間として一つになった、その中にきちんとエミリオが入ってくれている、その事実がたまらなく嬉しくて、どうしようもなく沸き上がる衝動そのままに笑顔が浮かんでしまう。この旅で今が一番、最も嬉しい瞬間だった。

「っ…!」

「お?どうかしたの?紅くなっちゃって」

「なんでもない、今ので洞窟に負担をかけたかも知れん。崩れんうちに先を急ぐぞ」

「ほほぉーう……?」

『ルーティ、野暮な詮索は止しなさいな』

少し離れた位置でエミリオとルーティが何か小声でやり取りしているみたいだったけど、その会話は傍ではしゃぐスタンとマリーの会話で聞き取れなかった。

――こうしてより一層仲間としての絆を強めた私達一行は、無事海底洞窟を抜けてモリュウ領へと辿り着いたのだった。


2014/06/29
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