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月へ唄う運命の唄
ほんの少しの。8

「スターン!!ルーティー!!大丈夫ー!?」

底に向かって大声で叫んでみるも、重く反響するだけで彼らからの返事はない。声が届かない程の深さなのか、はたまた返事が出来ない程の怪我でも負ったのか。空舞で飛んでみようかとも思ったが、底の方はわからないが少なくとも入り口の方は翼が通れるだけの広さがないために不可能だった。

「仕方ない、一度シデン領へ戻ってロープを調達してこよう。マリー、フィリア、ここを頼めるか」

「任せろ」

「お任せ下さい、お二人が戻るまでお待ちしておりますわ」

「よし、クノン、急いで戻るぞ」

「…ふふ、…うん!」

的確に指示を出し来た道を戻りだすエミリオ。
本当に、変わり始めてる。少し前なら、「馬鹿どもが」とでも吐き捨ててそのまま先へ進もうとしていたかもしれない。けれど今は率先して仲間を助けようと動いてる。こういう変化の一つ一つがとても嬉しくて、どうしても笑みが堪えきれない。


――そうして小一時間後、シデン領からロープを調達してきた私達は早速穴へと投げ入れる。私達が戻る少し前に、フィリアの呼び掛けにスタンが答えたらしいので恐らくは自力で登ってこれるだろう。
暫く待っていると、無事二人はロープを伝って脱出してきた。

「心配かけて、ごめん。これからはほどほどにするわ」

神妙に謝ったかと思えば、照れ隠しなのかぺろっと舌を出して笑うルーティ。声を揃えてツッコミを入れるスタンとディムロスをからかっている姿は明るく、どこにも影はない…のだが、いつもより少しだけ気配が柔らかいというか、スタンを見る彼女の目が変わったような気がする。

『これは、下で何かあったわね』

「何かって?」

『………やっぱり貴女は貴女、ね』

物凄く深いため息を吐かれた。ちょっとそれどういう意味?いや今の姫の反応でだいたいどういう事かはわかった気がするけど…ほんとに?あの二人が?…へぇ。

「………」

隣でエミリオがどこか複雑そうな顔でじゃれるスタン達を見ていたような気がするけれど、私はそれを見ないふりをした。

――そしてまた無事に全員揃った私達は、再びモリュウ領を目指して洞窟を歩き始める。
それからまた数時間、暗くジメジメとした洞窟内を時折襲い来る魔物達を倒しつつ暫く進むと、漸く数十メートル程先に出口らしき光が見えてきた。
長かった洞窟探索もやっと終わる、そうホっと一息つこうとするも、どうやらそう事は簡単には運んでくれないらしい。私達の後方、つい先程通り過ぎた曲がり角の向こうからべちゃり、べちゃりと粘着質な音とともに巨大な魔物が姿を現した。
元は何らかの植物の胞子か、はたまた海洋生物か…ほぼ原型を留めていないその姿は異様だ。おそらくはこれがこの洞窟の主・ケイブクイーンであろう。

「ち、図体ばかり大きな木偶が…喰らえ、"ストーンウォール"!」

「いきます…"サンダーブレード"!!」

エミリオが一撃、二撃とケイブクイーンの腕部を斬り落としトドメと岩塊を頭上に叩き落とす。さらにフィリアの持つクレメンテから伸びた長大な雷光の剣が胴を横薙ぎに焼き斬る。焦げ付く傷みに金切り声のように鳴くケイブクイーンだったが、見る間にその傷口が塞がり潰れた頭部や落とされた腕部も再生していく。

「なっ……クソっ!」

ズドン!と派手な音を立てて蔓のような腕が一瞬前までエミリオが居た地面を叩き割る。

再生能力の高いタイプか。少し厄介だ。

鳴き喚くケイブクイーンは傷付けられた事に警戒レベルを引き上げたのか、脚に当たると思われる部分から猪大の大きさの分裂体…ケイブシャークと呼ばれる個体を数体生み出し身を固めだした。
見た目の印象としては巨大な餅のような感じだが、球体状の身体の半ばまで大きく裂けた口には冗談のように鋭い牙が生え揃っている。

「再生に分裂…倒しきるのはちょっと骨かもね」

「だがだからと言って見逃しては貰えまい…どうする?」

ベタン、と跳ね回りながら噛み付いてくるケイブシャークの攻撃を回避しつつ、一旦後退してきたエミリオが訊いてくる。


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あきゅろす。
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