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月へ唄う運命の唄
桜吹雪に何想う10

旗艦に舞い降りた私達は、まずは甲板に居た敵兵の一団を蹴散らし一直線に砲手の居る船内下部、艦載砲の並ぶ場所へと走り抜ける。
突如姿を現した私達に驚き戸惑う敵兵達を倒して無力化させるのは思ったよりも簡単で、かえって拍子抜けしてしまった程だ。曰く

「まさか敵が船よりも速く空を飛んで突入してくるなどとは思わなかったのだろうな」

だそうで。確かに生身で空飛ぶ人間なんて自分でもちょっと非常識かななんて思うけれど。
そして次にやるべき事は仲間の船をこの船につけさせる為の援護。これにはこの船の周りの遊撃船をどうにかしなければならない。とりあえず甲板まで戻って来た私は仲間の船とこの船の直線上にある遊撃船に向けて風を叩きつけてやる事にした。

「フィリア、借りるね…逆巻け風よ、"烈風旋"!!」

フィリアの晶術を元に同じ現象を巫術で起こす。元になったのは"ストーム"。ただし縦に伸びる本家とは違い、水平方向に放たれた巨大な風の渦巻きが遊撃船の帆を煽り強制的に左右に散らし、仲間の船の進路を確保する。
バランスを保てなかった小さな船のいくつかが転覆していたけれど、それでも他の攻撃術で破壊してしまうよりはマシだと思う。

「――よし、上手くいったみたい」

「随分好き勝手やってくれるじゃねぇの、お嬢さん方」

突然背後から聞こえた、怒気のこもった低い声に振り返る。少し離れた位置に立っていたのは筋肉質な身体を僧服の下に隠した、あまり穏やかな人とは言えない部類の好戦的な男性だった。手甲型の鉤爪を両腕に嵌め、いつでも戦闘可能といった様子だ。
隣に居たエミリオは既に切っ先を男性に向けている。

「おい貴様、まさか僕も"お嬢さん"扱いはしていないだろうな」

「おっと気に障ったなら謝るぜ、野郎にしては可愛い顔してやがったもんだからよ」

へらり、と小馬鹿にしたように笑いながらぼりぼりと頭を掻く様子にエミリオは青筋を浮かべて今にも飛びかからんばかりだ。

「リオン落ち着いて。安い挑発に乗っちゃ駄目」

「ちっ」

舌打ちしながらもどうにか自制してくれたようだ。

「あらま、惜しかったか。その銀の剣、おたくがリオン=マグナス。んでその隣にいるお嬢さんは相棒のクノン、で合ってんのかね」

「だとしたら何?そういうあなたは何者?グレバムとはどんな関係?」

「ハッ、答えてやる義理はねぇな」

再び小馬鹿にしたような笑みを男性が浮かべた時だった。背後から聞き覚えのある叫び声が響く。

「バティスタ!!」

「ほう、グズのフィリアじゃねぇか。あのまま石になってりゃ良かったものを、わざわざ追ってきたのかよ。……、ちょいとお喋りに時間かけ過ぎちまったか」

一瞬、ほんの僅かに困ったような表情を浮かべたバティスタ。だがまたすぐに表情を戻すと、フィリアに続いて乗り込んで来る仲間達に目を向ける。

「おうおうゾロゾロとやって来やがって」

「リオン!クノン!無事だったか!?」

「すまない、待たせた」

「フィリアさん!あいつは敵ですか!?」

この野太い声は……。

嫌な予感がして振り返ると、案の定スタンやマリーに続いて乗り込んで来たのはあの脳筋タコ坊主、もといコングマンだった。

「なんで居るの」

「ヒーローの役目がどうのこうのとかって言いながら追いかけて来たのよ。実際はフィリアにイイトコ見せたかったんじゃない?」

ルーティがうんざりしたような表情で説明してくれた。つられて私もうんざりした。…ともあれ。

「さて、バティスタ、だっけ。グレバムと神の眼の行方、吐いて貰うよ」

「フン、やれるもんならやってみな。野郎ども!出てきな!!」

バティスタが合図をすると、どこに隠れていたのか僧兵達が次々と得物を手に手に姿を現した。ナックル、棍棒、モーニングスター…どれもこれも刃物ではなく打撃系武器なのは神官であるがゆえなのか。
しかしそれでも振るわれれば人を傷付ける道具だ。敵意を持って向かってくるなら容赦はしない。

「知りたきゃ力ずくで来るんだな、行くぜ!!」

バティスタがこちらへ向かって走り出すのを皮切りに、僧兵達も私達に向かって襲いかかって来た。

ヒュガ!!と空気を切り裂きながら眼前を突き抜ける鉤爪。それを上体を反らして躱すと勢いそのままに腕を蹴り上げる。腕を弾かれたバティスタはもう片方の鉤爪を横薙ぎに振るうがそれはいつの間にか手にしていた刀によって防がれ、"金属同士がぶつかり合う"甲高い音が響いた。二人は一度距離を取る。

「ち、やるじゃねぇか。つかよ、その剣はなんだ?姫騎士クノンっつったら電撃の剣じゃなかったのかよ」

その通り。今私が手にしているのは、布都御魂の刀身を持つ紫桜姫ではなく、数年前に折られてから修復していた羽姫の方だ。

「あれは人との戦いに向ける剣じゃない」


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