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月へ唄う運命の唄
桜吹雪に何想う9

沖へ出ると、見えたのは数隻の木造の船。ご丁寧に艦載砲まで備えた戦艦を旗艦とし複数の遊撃船が従うように周りを固めている。
あれを撃たれたらちょっと厳しいな、なんて思った矢先、低い震動を伴って轟音が炸裂し、私達の船のすぐ脇の海面に巨大な水柱が上がった。

「まずい、砲撃か!」

「うわっあんなの当たったらひとたまりもないわよ!?」

エミリオとルーティが同時に声を上げる。

「クノン、防ぐ手立てはあるか?」

「さすがにあの砲撃を防ぐのは即興じゃちょっと無理っ!船長さんお願い、頑張って!!」

いくら巫術の汎用性が高いといっても限度はある。常に移動を続ける船に雷壁陣は使えないし、闘技場にかけたような魔物の侵入のみを選択して排除する退魔陣では純粋な物理攻撃の砲弾は素通りしてしまう。
だからと言って個人戦闘の術式で一発一発撃ち落とそうだなんて消耗を考えたらほぼ不可能。旗艦に追い付く前に倒れちゃう。けれどそれを躊躇ったばかりにこちらの船を沈められては本末転倒だ。
次々と撃ち放たれる砲弾が海面に着弾する度に水柱が上がり、激しく船を揺らす。その度に焦りも徐々に増してくる。

「ここはやっぱり多少無理してでも私が撃ち落とすしか……!」

「馬鹿を言うな、また心配させる気かお前は!」

「クノン、私に考えがある」

甲板に出ようとした私をエミリオが腕を掴んで引き留めると、マリーが話しかけて来た。

「クノン、この前の空を飛ぶ技、人を抱えてても出来るか?もし出来るのなら、砲撃してくる旗艦に直接乗り込んで砲手を倒してしまえばいい。この前見た限り相当な速さで飛べるようだから、先行する事も出来ると思うが」

「大丈夫だと思うけど、って、えぇっ!?」

「よし、なら次の連射が来る前に行こう。先行は私が乗り込むから、クノンは私を旗艦に降ろしたらすぐに戻ってくれ」

「正気か!?敵の本拠に単身飛び込むなど!」

マリーの驚くべき提案にエミリオが無謀だと怒鳴る。…けれど、…うん。

「わかった」

「おいクノン!?」

「でもマリーさんだけ置いていくなんて無茶はさせられない。私も一緒に旗艦に乗り込む。それが駄目なら、やっぱり此処で追い付くまで私が砲撃を撃ち落とす」

「どうしてそうお前は…」

自分の負担ばかり増やそうとするんだ。

小さく呟いた声にごめんね、とだけ返す。私に出来る事があるのなら、そしてそれがエミリオとマリアンを守る事に繋がるのなら、やっぱり私は全力を注ぎたいの。

マリーが戦斧を担ぎ直し、私も髪留めを外して準備している中、苦い顔をしたり苦しそうに唸ったりしていたエミリオが、突然叫び声を上げた。

「〜〜〜っ、あぁもうわかった!!マリー、僕と代われ。クノンに掴まって飛ぶなら恐らく僕の方が軽いし負担も減るだろう。それに強襲するなら普段からコンビを組んでいる者同士の方が成功率は高くなる」

「あぁ、それは構わないが…だがそれでは旗艦に追い付くまでの指揮はどうするのだ?」

「それについてはスタン、僕が不在の間は一時的にお前に預ける。旗艦に乗り込んで僕達と合流するまでは任せた」

「俺!?……、わかった。リオンがせっかく"信頼"してくれたんだ、任せてくれ」

びっくり。一緒に強襲するって言い出した事にも驚いたけど、部隊の指揮を預けるだなんて。いくら打ち解けたといっても、こんなにもエミリオが他人を信頼するだなんて。それにスタンもスタンで、エミリオの信頼に真っ直ぐに応えようとしてくれてる。なんだか場違いだけど、嬉しくなってきちゃうな。

「おい、さっさとそのニヤケ顔を直せ。急がねばならん」

甲板に移動しながら考えていると、嬉しさが顔に出ちゃってたみたいで怒られた。

「あはは、ちょっと、ね。それじゃリオン、ここに掴まって………て……?」

「む…こう、でいいか?」

そう言って指差した私の腰、お腹周りに腕を回すエミリオ。

………しまったぁあああ!!女の子同士のマリーなら大丈夫だと思ってたけど、相手がエミリオって…エミリオって…!
背中に翼が生えるせいで背負うことが出来ないし、だからって正面から抱…抱き…なんてもっと無理!これが一ヶ月前なら意識しなくて済んだのに…うぅ。

「我慢……我慢……」

「おい、何をぶつぶつ言ってるんだ?」

「なんでもないっ!行くよ、"空舞"!!」

髪留めを翼に変えた私は、雑念ごと振り払うようにして全速力で船を飛び立った。
後で聞いた話、それはまさに弾丸のような速度だったそうな。どうりで到着した時、妙にエミリオがぐったりしていたわけだ。


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