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月へ唄う運命の唄
桜吹雪に何想う8

彼の手がにゅっと私の顔に伸びてきたかと思うと、あろう事か頬に付いていたらしいアイスを指で拭い、さらにそのまま拭った指を自身の口に放り込んだ。

「あ…あ…」

「ん、やはり甘い。全く子供じゃないんだ、もっと上品に食え」

驚きとあまりの恥ずかしさに声が出ない。自分ではっきりわかるくらいに顔が、全身がやたら熱い。

『あらあら、これはまた…』

『坊っちゃんてばだ、大胆ですねぇ』

「?何がだ?…おいどうしたクノン、魚みたいに口をパクパクさせて」

「あな…あう…ふあ…」

ちょっと待ってよエミリオそれ狡いおまけに無自覚って何なの卑怯だよ!!一人でテンパってる私を前にしてそんな不思議そうな顔して見つめないでってば言えるわけないじゃない!

『こういう時なんて言えば良いんですかね』

『そうね…ただ一言、御馳走様って言えばいいんじゃないかしら』

くすくすと楽しそうに笑う姫の声が物凄く遠くに感じる。恥ずかしさにぷるぷる震えながら油の切れた機械みたいな動きでエミリオから顔を逸らすと、少し溶け始めた残りのアイスをなんとか食べきる。

は、恥ずか死ぬ…。

そうして暫く、闘技場へ向かった仲間を待つ。その間は二人して無言だったけれど、ゆっくりとした穏やかな時間で気まずいなどという事はなかった。


「――?外が騒がしいな」

読んでいた本を閉じたエミリオが席を立つと、窓から外の様子を窺う。

「…おいクノン、出るぞ!街が魔物に襲われている!!」

「ええ!?わかった!」

二人で屋敷を飛び出すと、剣を抜いて暴れまわる魔物達に飛び掛かる。
魔物はどうやら街中に入り込んでしまっているらしく、そこら中から悲鳴や怒号が聞こえてくる。…思い出されるのは、私がこの世界に来てから初めての剣聖杯。力無い一般人達が一方的に蹂躙される地獄絵図。襲撃しているのが魔物と人間、という差こそあれ、人の命が脅かされているという事に違いはない。

「くそ、こんな時にあの馬鹿どもは何をしている!」

また一体魔物を斬り捨てたエミリオが苛立たしげに吐き捨てる。

「闘技場!…そうだ、街の人はあそこに避難させれば!」

セインガルドのコロシアムと似たような場所であるなら多くの人々を収容出来る筈だし、出入口さえしっかり封鎖して守りを固めれば安全な筈だ。

「リオン、街の人の避難誘導と先導、お願い出来る!?」

「お前はどうする気だ!?また無茶するつもりじゃないだろうな!」

「大丈夫心配しないで、私は何処から魔物が入り込んでるのか突き止めたら、結界で侵入口を封鎖するから」

「いや、そういう事ならやはり避難誘導と先導はお前がやれ。同じ結界を張るなら闘技場とやらを囲った方が手間がかからんし負担も減るだろう。侵入経路の発見と敵の排除は僕がやる……行け!」

背中合わせに作戦会議を終わらせると、私達はそれぞれの役目を果たすべく同時に走り出した。
私がやるべき事は、街中に散っている人々を闘技場に避難させ、然る後に魔物の侵入を防ぐ結界で闘技場を囲う事。出来るだけ急がないと。街の人は死なせないっ!!

街の下層、スラムのような所から上層に位置する桜並木の広場まで、必死で駆け抜けては襲われている人々を助けて回る。ルーティや姫と違ってロクな回復術の使えない私では簡単な応急処置程度の術しか出来ないのがもどかしい。
あらかた街の中を見て逃げ遅れた人や怪我人の救助を終えた私は、仕上げを行うべく闘技場へと辿り着くとそこで仲間達と合流した。
どうやら闘技場の魔物を解き放った者が居たらしく、放たれた魔物を排除していた為に足止めされていたらしい。そしてこの一連の出来事の容疑者は、街に魔物が襲い掛かってきたのと時を同じくして突如ノイシュタットの沖に現れたらしい武装船団だという。

「この魔物達の動きといい、ほぼ間違いなくグレバムが絡んでるね。みんな、リオンと合流して武装船団を叩こう!」

「おう!!」

闘技場をぐるりと囲うように半球型の退魔陣を張った後、念のために闘技場の衛兵に出入口の見張りを頼み、その場に居たイレーヌさんに討伐船の許可を貰って港へと向かう。途中でエミリオとも合流を果たし、船に乗り込んだ私達は沖に浮かぶ武装船団に向けて出港した。


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あきゅろす。
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