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月へ唄う運命の唄
桜吹雪に何想う4

「いやー、良かったじゃない。なんだかよくわかんないけど、あんた達カルビオラであたし達が買い物から帰って来てからずっと様子がおかしかったし心配してたのよね」

つかつかとこちらに近付いてくる足音。恥ずかしくて顔を上げられないから見えないけれど、絶対ルーティの顔はニヤニヤしているに違いないと確信出来た。そして絶対絶対、冷やかしてからかう気満々だ。やめて、私はともかくエミリオが好きなのはマリアンなんだから。彼の迷惑になって嫌われたくない。

「で?実際あんたら付き合ってんの?」

そんな事はつゆと知らず、ルーティは平然と地雷原に爆弾を放り込む。…否、爆弾を抱えてのっしのっしと闊歩する。

「いやぁヤルわねぇ。兄と妹の禁断の恋ってやつかしら?…あれ、血は繋がってないんだっけ。じゃあオッケーじゃない」

「…………」

あああ私の頭の上でエミリオの手がぷるぷる震えてる!?今にも髪の毛鷲掴みにしながら握り締めそうなんだけど!!ハゲたら恨むよルーティ!!

「いいわねー、美男美女カップルってやつ?」

「…黙れ」

「二人とも綺麗な顔立ちしてるから絵にな……ん?」

「黙れぇええ!!」

「ぎゃああああああ!?」

カチッ、と不吉な音がした次の瞬間には、ばりばりとルーティにつけられた囚人監視用のティアラから容赦ない出力の電流が彼女の全身を走り回っていた。南無南無。


「――フン、ではクノン、間もなく目的地に到着するが、それまではゆっくりと体を休めておけ」

ぱたんと入室してきた時同様、静かに個室の扉を閉めてエミリオは出ていった。…軽く焦げながら気絶したルーティの首根っこを掴んで引きずりながら。
静かになった室内で、私は漸く一息つくことが出来た。

「恥ずかしかった…エミリオ、勘違いされて怒ってなければいいけど」

『大丈夫じゃないかしら?』

あの大騒ぎの中、ずっと黙っていた姫が口を開く。そういえばシャルも居たのに黙ってたなと今更ながらに思い出した。

「なんで?」

『さぁ?そんな気がしただけよ』

くすくすと笑みを噛み殺しながら言う姫。あんまり無責任な事言わないで欲しい…けれどまぁ姫が大丈夫って笑ってるなら平気なのかな。
深く考え過ぎるとまた鬱々としてしまいそうな気がした私は、あえてそう考えて自分を納得させると再び布団に潜り込む事にした。

次の目的地はフィッツガルドの港町・ノイシュタット。カルビオラにて私達の救援に来てくれたバルックさんに貰った情報を頼りに、私達は神の眼を追う。


――港に到着すると、私達は早速有力な情報を求めてオベロン社の幹部・イレーヌ=レンブラントさんを訪ねる事にした。そしてその道すがら、ちょっとした現場に出会した。
ノイシュタットはオベロン社の影響により急速的に発展した街だ。そしてあまりにも速すぎた発展は主に貧富の差という形で歪みをもたらした。そうした歪みの常として、突発的に富を蓄えた富裕層の者は発展の速度に乗り切れなかった"そうでない者"を見下し蔑む傾向がある。どこの世界であっても、『富』とは人を簡単に狂わせるのだ。

そしてその現場とは、まさに富裕層の人間が貧困層の者を蔑んでいる場面だった。
簡単に言えば、裕福なお坊ちゃんが貧しい子供を虐めている現場だ。
そしてその現場に出会した時、意外にも一番に飛び出して場を収めたのはルーティだった。彼女は虐めていた富裕層の子供達を追い払った後、虐められていた子の傷を手際よく治療しながらも卑屈にならず、強くなる事を諭していた。その説得力は、あたかも実体験を踏まえたかのような真実味を帯びている。
…もしかしたら、エミリオと生き別れた事と関係があるのかも知れない。例えば、親に捨てられた後"どうやって生きてきた"のか。考えてみれば、どうして盗掘行為までしてお金を稼ぐようなレンズハンターなどをしているのか。
そして"強欲の魔女"とまで呼ばれる程に荒稼ぎしていたと思われるも、彼女がそのお金を自分で使っているような様子もない。それはこの旅でのお金の使い方を見ればよくわかる。極限まで節約しようとする、まるで"余裕がない"人の使い方だからだ。…この辺りも不思議ではあるけれど、もしかしたら簡単に訊いてもいい事じゃないのかも知れない。


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