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月へ唄う運命の唄
桜吹雪に何想う2

ゆらゆら、ゆらゆら。
緩やかな波をかき分けながら、まんまとカルバレイスより神の眼を運び去ったグレバム一味を追う船は行く。
奪還が失敗したことで船内に鉛のように重苦しい空気が立ち込める…などという事はなく、むしろいつにも増して空気は和やかだ。
その最たる原因はと言えば、

「おーいリオン、みんなでトランプやらないか?」

「やらん。というか待て、お前ら現状を理解しているのか?遊んでいる暇があるなら鍛練でも積んだらどうだ」

「いやー、だってグレバムに追い付くまでどのみち暇でしょ?いいじゃない息抜きしたって」

「お前は隙あらば地面を眺めて銭拾いという名の息抜きをしているだろう」

「リオンも混ざるといい、楽しいぞ?…お、揃った」

「マイペースも結構だが僕はやらんと先程言っただろう、人の話を聞け」

「あー!!くっそ、ババ引いたぁ!!」

「うふふ、スタンさんてばわかりやすいですね」

「頭が痛くなってきたんだが……」

『坊っちゃん、混ざった方が楽ですよ?色々』

このように微妙にではあるがリオンの態度がこれまでよりも軟化している事だろう。
これまでの彼ならば、声をかけられたところで尽く無視していただろう。それ以前にまず遊べるような空気も許しはしないし、わざわざはしゃぐ仲間のそばには留まらずに甲板に姿を消してしまう。
それが和気藹々とカードゲームに興じる仲間と同じ空間に留まり、少しトゲがありながらも会話に参加しているのだから大した進歩といえる。
何より、話しかける事すら躊躇われるような突き放す雰囲気から、こうして気兼ねなく遊びに誘えるようになったのだから驚きだ。

「なーリオンも混ざりなって。そんな年中眉間に皺寄せてたら老けブッ!?」

「五月蝿い、大きなお世話だっ!」

スパーンと小気味良い音を立ててリオンが手にしていた本がスタンの後頭部に直撃する。
その漫才のような光景は、ダリルシェイドでその帰りを待つかのメイド長がみれば目を細めて喜びに微笑んでいたことだろう。
…ただそんな和やかな雰囲気の中、一つだけ欠けているものがある。カルバレイスを出てすぐに体調不良を訴え、個室で静養中のクノンだ。

「にしてもクノンってば大丈夫かしら?珍しいわよね、あの子が体調不良だなんて」

『そうね…。でもあの子は貴女達とは違って、自分自身の内部の力を使って戦っているようだし、力の消費がそのまま体調に直結するのも仕方ないのかも知れないわね』

『扱う術の強力さにばかり目を奪われがちじゃが、こんな弱点もあるんじゃのう。…儂がもし使えたとしても、あっという間にミイラになりそうじゃな』

「ミイラは大袈裟かも知れませんが、私達もクノンさんに頼りきりのままではいけないという事ですね」

『スタン、今のフィリアの台詞を聞いていたか?』

「わかってるよ、俺ももっと鍛えてクノンの負担を減らしてやらなきゃな……、勿論リオンの負担も」

にか、と笑いかけてくる無邪気な笑顔に、リオンはぷいと顔を背ける。わかっているならいい、と小さく呟いた彼は再び窓際の席につくと読みかけていた本に目を落とす。
…が、ものの数分もしない内に本を閉じると、船室の扉に向かって歩き出した。

「あ〜ら、愛しの彼女のお見舞い?」

「馬鹿を言え。あいつはそんなんじゃない」

「おっと失礼、可愛い妹ちゃんだったわね」

「もうなんとでも言え」

お見舞いは否定しないのね、と肩を竦めたルーティは苦笑いでリオンの背中を見送る。

「まったく心配なら心配って素直に言えないのかしらねー。ゲームに参加しないのだって、本当は心配で落ち着かないからだった癖に」

「むすっとした表情を作りながらそわそわしてる姿はなかなかに可愛かったな」

「あ、マリーもそう思った?案外可愛いとこあるのよね」

「まぁ、おそらくクノンさん限定だとは思いますけれどね」

「………」

きゃっきゃと素直になれない少年を愛でる女性陣の会話に一人入れないスタンは、所在なさげに最後まで残ったカードとにらめっこを続けていた。…なぜジョーカーがババというのだろう、という疑問は夕食の時間になっても解けることはなかった。


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あきゅろす。
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